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 人体練成に成功し、戻ってきたばかりの弟を兄は即座に軍の病院に入院させた。
軍の中にはロイ・マスタングといった高い地位と人望を持つ仲間がいる。
弟と息を潜めて隠れるよりも、信頼の置ける仲間たちが周りにいたほうが安全だし、アルフォンスの回復も早いはず
だ、というのは人体練成をする前から兄弟が話し合ってきたことだった。


 人体練成に成功してから一週間、弟は眠り続けた。
左足を取り戻したエドワードは、一日意識を失っていた。目覚めて一言目に発した言葉は「アルは?」で、後見役とし
て見舞いにきた軍部の面々をあきれさせた。

目覚めてからのほうが、むしろ、エドワードの疲労は激しかった。
片時も弟のそばから離れることも、目を離すことすらしない。
常にアルフォンスの手を握り締めて、耳元につけている。決して高いとは言えないけれど、アルフォンスの体温がきち
んと伝わってくるのだ。そうして、ひそやかに脈打つ音も聞こえてきて、エドワードの胸を熱くさせた。

それが、エドワードをすべての不安や孤独から救った。いつ目覚めるかは知れないけれど、ここにいる、アルフォンス
という存在。



 弟のからだが戻ってきてからちょうど8日目に、弟は目を覚ました。
 
 朝だった。東に面した窓からは冬の終わりの、けれども鮮やかな朝日が差し込んでいる。エドワードはいつもどおり
アルフォンスの隣で朝食をとり、それから弟の手をとって握ってみることで、手に刺激を与えてみた。
「アル、おはよ。」
8日目の朝。エドワードの世界には光が満ちていた。よこたわっているのは紛れも無く弟のアルフォンス・エルリック
で、彼は練成をした直後、「にいさん」と声を発し、涙を流していた。それはとても力なくはかないものだったけれど。

それきり目を覚まさないアルフォンスを見つめる。
それは祈りに似ていた。アルフォンスの手を取って、生きていることを確認する。少しでも自分につなぎ止めたい。
もしも。
もしもオレたちが本当につながっていたのなら。
その祈りは、かなうはずだ。

 きっと、すぐに目を覚ます。

「アルフォンス。今日も天気がいいぞ。」
微笑んで、もう一度言ってみた。届いている。きっと。
 
 ぴくん。
と、耳元につけていた自分の生身の左手が握り返されたような気がした。機械鎧の右手も添えて、弟の手を包み込
んでみる。ただただ震える手で弟の手を握り締めた。

アルは、かえって来るんだ。

たとえこれがただの反射であっても、兄にとっては弟が動いたことに変わりはなかった。

 だが、違った。それは反射ではなく目覚めだった。
もう一度弟は弱く兄を真っ白なその手で握り返し、それと同時に淡い金色の瞳を、朝の光を集めながらうっすらと開い
た。

 ふわりとカーテンが揺れる。春の風と、花の香りが舞い込んでくる。エドワードは言葉を失ってアルフォンスの顔を見
つめた。
金色の瞳は、朝の光に驚いたらしい、すぐに閉じられて、でもまたこわごわと開かれた。
瞬きを、二回。金色の瞳はその細い視界の中に兄をとらえたらしい。視線が定められて、エドワードは思わず自分も
瞬きした。

「・・・アル?」

やっと春の風を胸に吸い込んで、その名前を呼ぶ。

そうだ、世界には光が満ちている。

「・・・アルフォンス?」
金色の、二つの瞳がすっと細められた。

「・・・にいさん」

ああ、もっと弟の顔を見たいのに。
滲んだ視界のなか、懸命に息を吸って、やっと弟にこの言葉を手向ける。
できる限りの、柔らかい笑顔をたたえて。

「おかえり、アル。」
 
 









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