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村から少しだけ離れたところにある、エルリック動物病院は、日曜日は休診だ。
とは言っても、急患やおなじみさんなら休診日でも快く受け入れてくれる。
この村では誰もが小鳥や猫や犬を飼っていて、まるで家族のように大事にしているから皆お馴染みのようなものなの
だけれど。
「ある先生、こんにちは!」
大きなシーツの下から覗くすらりとした二本の脚めがけてあいさつすると、金髪の短い髪の毛をちょっと揺らして、ひょ
っこり優しい顔がシーツの間から出てきた。
すっきりとした男性らしい輪郭の顔に、それにそぐわないほどのくりくりの瞳を輝かせている。
「サラ!おはよう。今日も元気だね」
ある先生はいつも、短い金髪にやっぱり金色の大きな瞳をくるくるさせながらほほ笑む。20歳は越していると聞いた
けれど、とてもそうとは思えない童顔だ。眼鏡をかけると知的な印象を持つけれど、白衣も眼鏡も掛けていない先生 はまるで子供のようで無邪気。
ある先生の本当の名前はアルフォンスなのだという。でも長いから呼びにくいでしょう、「アル」でいいよ、といったか
ら、越してきて以来もっぱらここでは「ある先生」だ。
「先生は、元気?」
「うん。元気だよ。」
にこっと笑う先生を見て、私も笑顔を返す。今日もなんだか、いい一日になるような予感がするのだ。
「ああ、シルバも」
私越しに笑いかけたから振り向くと、同じ学校のシルバがこちらに手を振っていた。
離れていてもみんな何故かエルリック動物病院の前を通る。なぜならちょうど登校時間に、アルフォンス先生が洗濯
物を干しているからだ。たくさんほすのね、と聞くと「二人分だからね」とアルフォンス先生は肩をすくめた。
先生の家族はたったひとりなのだという。それはお兄さんで、軍人さんなのだと聞いた。朝は遅くてときどき遠くへ働
きに行ってなかなか帰ってこないこともあるらしいから、私はあんまり見たことはない。
「アックスは?」
「中で準備してるよ。呼ぼうか」
ある先生はにっこりと意味ありげに微笑んだ。うろたえた私は咳ばらいを思わず一つ。
「い、いい。じゃあ先生、行ってきます。・・・あ、明日の約束、覚えてる?」
「うん。覚えてるよ。10時に来るんだよね」
「忘れないでね」
「もちろん」
遅刻するよ、と先生は柔らかい声で掌をこちらに向けた。先生の声はいつも、この村の空気の中に魔法のように溶け
込んでまるで時計を動かすみたいに、ゆっくりと村人の心に浸透する。
私は意識しなくても勝手に微笑んでしまって、ああ、今日もいい一日だなあと楽しい一日の始まりを予感するのだ。
先生は、この村唯一の動物たちのお医者さん。会ったことはないけれど、お兄さんと一緒にいつの間にかこの村にや
ってきていて、いつの間にかこの村には欠かせない存在になってしまっていた。
どんな動物も、たとえそれが人間であっても深い傷の淵からたちまち救いだしてしまう。きっと先生自身が深い底の
淵にある、静かな心を知っているからだ。
振り返ると、先生はまた村の誰かに手を振って、洗濯物を入れていたバスケットを抱えあげた。きっと今から白衣に着
替えてひっきりなしに病気でもないペットを連れてくる村人たちの相手をするんだろう。
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