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後ろから、できるだけゆっくりとしたしぐさで抱きしめた。耳と耳をくっつけるように、自分の顔をアルの首筋に擦り付け
る。
「そんなに傷つくなら、獣医なんかやめちまえよ」
「うん、でも」
「昨日の犬は老衰の大往生だった。悲しいことなんかない。そうだろ」
弟は、掌の中の生命をたゆまずなで続けている。肩に乗せた顔に、なぜか悲しそうなその振動が、ゆるりと伝わって
くる。
動き続ける掌にやっぱり昨日同じように大きな犬をなで続けていた、しなやかな掌の像が重なった。
目を伏せる。こめかみに口づけると、「大丈夫だよ」という、でも力弱い声が聞こえる。弟が少しだけほほ笑んだのが
わかったけれど、その力弱さにもう一度柔らかく唇で触れた。
昨日の夜遅くに、駆け込みで連れ込まれた犬、アリス。
何度かうちに来たことがあることは知っていた。もう20年近くもかわいがられていて、体があちこち悪くなっていたか
ら、駆け込んだとはいえ、飼い主のジョンじいさんもどこか覚悟しているようでもあった。
「エルリック先生に、最後をみとってもらおうと・・・」
そこまで言って、ジョンじいさんは口を閉ざした。アルは何も言わずにこっくり頷いて診察室に導いた。
アリスが息を引き取ったのは、明け方だった。アルフォンスとジョン爺さんは二人で、それまでずっと名前を呼び、アリ
スの背中をなで続けていた。俺もまさか眠ることなどできず、診察室に続く階段に腰を下ろして見守った。
明け方、アリスは弱弱しくなった息を絞るように小さく、声を漏らした。
アルフォンスはその声に「大丈夫だよ。アリス」と一言だけ、贈ったのだ。柔らかな微笑を讃えて。
弟はそれから少しだけふさいでいる。職業柄動物の死に直面することは多いのだが、ほんの少しだけなのだが、動
物が死んでしまうとふさいでしまう。
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