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通り雨に追われた。
息を切らして近くのグローサリーに駆け込み、呼吸を整える。
肩で呼吸をしても動悸が治まらず、膝に両手をついて体制を整える。
体が戻って半年、万全と思われるところまで体は戻っているはずなのに、全力で運動をすると喘息に近い症状に襲
われる。
生身は不便だ、というつぶやきが込み上げて、アルフォンスは失笑に近い笑いをこらえた。
「・・・困ったな」
ずぶぬれのこの状態にか、以前よりも弱いこの体にか。
ふと兄の顔が脳裏に揺れて、電話を探した。
エドワードは多分、この雨の中に体の弱い弟がどうしているのか、いてもたってもいられなくなっているだろう。
おろしたてのシャツが濡れて肌に張りつき、水滴が滴っている。
ここまで濡れてしまえばこのまま家に帰ってしまっても、兄の迎えを待っても結果はほとんど同じだろう。
いずれにせよ、明日には発熱するだろう。それは今までの経験でわかりきったことだ。
このからだは、よわすぎる。
「あ、兄さん?」
「―――どこだ?」
押し殺した声が、兄の不安や焦燥を物語っていてまた少し笑ってしまった。
今すぐにでもかけだしたいようなそんな情動を、この人は抑えることが出来ない。たとえどんなに小さな感情でも。
「駅前のグローサ」
「すぐ行く。待ってろ」
「いいよ。どうせ濡れちゃってるし。このまま帰るよ」
「ばか。風邪ひくぞ、いいから待ってろ」
そのまま電話を切られた。
アルフォンスはため息をついて受話器を置いた。
金色の髪を水滴が滴い、頬に至る。
兄の頬を伝ったあの滴もこんな色をしていた。
金色で、夜の光に良く映えていた。
あれは汗だったのだろうか、それとも涙だったのだろうか。
戸惑うようにゆっくりと頬を伝い、その下に組敷かれたアルフォンスの鎖骨に落ちた。
多分傷ついたのは誰よりもエドワードだった。
弟が痛みを訴える度、抵抗する度、眉を寄せて言葉を失った。
エドワードの強い視線を思い出す。瞬きもせずに見つめられた時の、動かない兄の意志を。
動けない自分の弱さを。
背中に触れた兄の熱い掌を。
抱き寄せられた強い腕の力を。
耳に届く、吐息のような、揺るぎのない言葉達を。
―――アル。
不器用で多分何度も言葉にしかけて押し殺していたんだろう。
強すぎて揺らぐことすらできなくて、どこにも行けなくなってしまったのだろう。
―――ごめんな
鋼鉄の腕で。
名前を呼ばれるだけで、こんなにも簡単に動けなくなってしまう。
兄だけにしか言葉にできない。ただ名前を呼ぶだけなのに。
雨がやもうとする気配に空を見上げる。
おそらくあの人はそれでも奔ってくるんだろう。
空に浮かぶ雲がどんどんと流されていく。おそらくやがて来る太陽の気配に脅えている。
それでも待たずには居れないのだ、あの光を。
あの金色の、瞬きを。
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