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「似てるよな・・・」
呟いたら、息が白く出た。
顔がにやけるけれど。そのくらいはほんと、許してほしい。
「ん・・・」
もうちょっとゆっくり眠っていてほしいのに、小さく呻いた腕の中の塊を、ことさら強く抱き締めて腕に閉じ込める。
ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう抱きしめたら、非難がましくやっぱり寝言で呻いたけど、絶対放してやるもんかとそのまんま
ベッドに埋めた。
ちょっと呻いたきり、腕の中のアルフォンスは眠ったままだ。
あ、違う。アルタンか。
クマの耳のついたパーカーを頭にしっかりかぶせてやって抱きなおした。近づいたするりとした額に口づける。
気持に際限がない。
抱きしめたら確かな弾力と温度が帰ってきて、寝息まで首筋にかかってきて、この存在が何度も失われそうになった
のかと思うと、めまいがする。
そして自分のふがいなさに、ほとんど涙が出そうになった。
なのにこいつは、お兄様の気持ちも知らないで。ひょこひょこ外に出やがって。
昨日、アルフォンスと喧嘩した。俺はひっさしぶりにあんなにカッときた。弟の無防備さには時々ほとほとあきれてし
まう。
口論の末、あいつは顔を真っ赤にして小さな手を振り上げた。容赦しないアルフォンスは小さいとはいえかなり手ご
わい。沸騰した頭で、どう来るか、どう防ごうかと考えていたら、(俺はどうしたって手を上げられないのだ)急に優しい 眉毛がしゅんと垂れて、「ごめんなさい」と、弟がつぶやいた。
ばかだなあ、と思う。
独占欲の塊の存在を、うかつに忘れてしまうこの弟も、
そんな迂闊な弟を籠に閉じ込めてしまいたいと考える、自分も。
俺があんなに怒ったのには、理由があるのだ。
実は、アルは二回さらわれたことがある。
一度は、市場でほんとに一瞬、目を離したすきにひったくりにでも合ったかのように連れ去られた。
それこそ、「泥棒!」とでも叫びたいような気持で喚き散らしながら追いかけ、錬金術で街をほとんど崩壊させてアル
フォンスを無事奪還した。
(アルフォンスは「びっくりした・・・」と目をくりくりさせていた。お前、その余裕はなんだ!!)
もう一度は、あいつは自力で帰ってきた。
俺は家に帰ってきて、アルがいなかったから、出掛けているんだろうと気軽に構えて本を読んでいた。
集中しすぎて時間がずいぶん経過していて、やっと俺が慌てだした頃、アルは一人でひょっこりと帰ってきたのだ。
右側の額にできたひどいあざから、出血していた。いたた、といいながら口元を拭って苦笑した弟を見たときの俺の衝
撃を、焦燥を悔しさを、悲しみを絶望を、わかるやつなんか多分、この世界のどこにもいない。
「暗闇で、太い棒でがつん、だもの。驚いた」
てへへ。
・・・・・・・・・てへへ、じゃ、ないっっっっ!!!!!
などと、叫ぶ余裕もなく。犯人を探すために飛び出そうとした俺は、だけど傷付いているアルフォンス一人にして家を
出るわけにも行かなかった。とりあえずアルを抱いて車で病院に向かって、治療と検査をした。何か異常があってか らでは、と一日かかって検査をし終わった頃にはアルは疲れきって眠ってしまい、ぐうぐう眠るアルフォンスを途方にく れて抱きかかえたまま、俺は本当に生きた心地がしなかった。
次の日、目を覚ましたアルのにっこり笑った「おはよう」に、言葉を失い立ち尽くし。怒り倒す気力もなく。
ただなんだか果てしない丘に立っているようなそんな壮大な妄想に取りつかれそうになった。
そんな丘の上でも、アルと一緒ならまあいいか、とか考えてしまう俺は本当に重傷なんだ。わかってる。わかってるん
だ・・・。
「にいさ・・」
「ん?」
自分でも随分優しい声が出たと驚きながら腕の中のアルを見たが、どうやら寝言だったらしい。もそもそと動いて、俺
の腕の中に自分の寝床を確保している様子。俺の左の肩口に額を押しつけて、またくうくう眠ってしまった。俺から は、着ぐるみから覗く前髪と長いまつげと、ほのかに赤い頬しか見えない。
これで安眠してるなら、もう罪だ。
この、アルタンめ。
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