よっぱらい・おまけ






鋼のが、げっそりしているらしいぞ、ハボック。ちょっとつきあってやれ。


そう言われて連れて行かれたのは、「ここ、バーじゃないっすか、酒飲むとこじゃないっすか」と重ねて突っ込みたくな
るような下町のひっそりとした一角にたたずむ店だった。

当然のようなしれっとした顔で並んで入っていく、一人の上官と、一人の上官相当の称号を持つ子供に声を張り上げ
る。

「ちょ・・・ちょっと!大将まだ15歳だろ!」
なんだその、「何言ってんだお前は」、って顔は。
ここは未成年立ち入り禁止区域だぞ、特にちっちゃい方は、でかい鎧の弟がこんなとこに入るのは絶対、絶対許さな
い癖に!!

「なんだよ今更」
なるほどどこかげっそりした表情の子供が完全上から目線で、捨て台詞。
「少尉、鋼のもそろそろそういう年だからな。大きな声ではできない話をしてやろうと言ってるんだ。」

・・・悪い大人だ。中尉を連れてくればよかったとしみじみ思う。
だがあの美女も時々怖いことをいうから、もしかして大真面目な顔で「エドワード君も不憫に。ハボック少尉は本当に
つれないから。」とか言いだしかねないけれど。

中に入ると、随分賑わっている。大声でビールをあるだけ、とか叫んでいるおやじとか、声を張り上げて笑ってる店の
大将らしき存在とか。
まあ、確かに子供がいてもちっとも構いません、みんなで楽しんだが勝ちって言う雰囲気だ。

まず、ビールを頼んだ。なみなみつがれて来たビールを、掴み取るようにエドワードが一気に飲みほす。乾杯とか、そ
ういう雰囲気じゃないらしい。
どしっとテーブルにジョッキをたたきつける。目が、すでに据わっている。
「にがい。」
けっと、毒づいた後、もう一杯と頼んでいる。ハボックは頭痛を感じた。
「私もビールはあまり好きじゃないね、ジンを頼もうかな。」
そう言いながらこくこくとビールをのどに通す上司。
眉間に手を当てて、もみほぐす部下。こちらもビールを一口ごくりと飲んだ。
とてもじゃないが素面でお相手できそうもない。


二杯めのジョッキを空にして、げっそりした子供は、今度は目を赤くして呟いた。

「・・・聞いてくれ。」
日頃出さないような低い声がかもし出す迫力に、思わず、大佐とハボックはうん、とうなずいた。

「「惚れた奴の弱み」って言うけどな・・・。あいつはほんと、分かっててやってんのかって、時々突っ込みたくなる。」

うん?
と、同時に二人で首をかしげた。
「誰のこと言ってんだ?」
「君はまだ、想いを告げてないのか。鎧君に。」

は?

危うくビールを噴くところで、なんとか胸を叩いて収める。
年頃の、げっそりした少年はこちらの動揺おかまいなしに、目の据わった顔で会話を続行中である。


「そう簡単に言えるか!血のつながった弟だぞ、アルフォンスだぞ。」
げふっ。と酒臭い息を吐いて、右手を挙げた。ビールもう一杯、と叫んでいる。
いろいろ聞きたいことはあるというか、かなり錯乱してはいるのだが、少年の日頃の行いと今日の荒れようを見た限
りでは疑いようもない。
なるほど、この少年のげっそりの原因は、間違いなく弟のアルフォンスらしい。
おもむろにハボックは口を閉ざしてむりやりビールをもう一口飲み下す。ひどく苦い。
とりあえず、会話する二人を観察した。

「今日も猫を拾ってきて・・・」
「いつものことじゃないか」
「いつものことだから困るんだ。あのでっかい黒い革の両手でな、大切そうに仔猫抱いて、『兄さん、ダメかな?』っ
て・・・。俺は返す言葉も見つからなかった。」
想像するまでもなく、アルフォンスが子猫を抱えた姿を思い出した。
「鎧のくせに。あの首の傾げ方は・・・罪だ。」
「ああ、アルよく首傾げてるな。そう言えば。」
困ったときとか、何かを尋ねるときとか。
自然と笑みが出る。なるほど、兄があの弟に執着する気持ちも、わからなくもない。


「あいつ・・・わかってんのかな、オレの気持ちとか。自分の状況とか」
「自分の状況?」
「目立つし、かわいいし、優しいし。・・・時々、エロい」
もう一口飲んでおこう、と思って口に含んだビールを、ハボックはついに噴いた。
きたねえなあ!と睨んできた少年を忌々しげに睨み返してしまったのはしょうがない。
「エロい鎧、ねえ。」
「ちょっと待て、無能に言われるとなんか汚されたようなかんじがすんぞ。しかもおやじギャグにすんな。人の弟を」
「それはそれは・・・人権侵害だ。」
「まあまあ、大佐。確かになあ、アル、声とかかわいいからなあ。」


確かに言われてみると思うのである。
どう見てもいかつくてごっつい鎧なのに、なんだかアルフォンスは存在がころころくるくる。
愛らしい、という形容がぴったりしてしまうような雰囲気を持っている。
そもそも、でっかい鎧が猫を抱いて優しく撫でている情景なんてシュール以外の何物でもないのに、しっくりきてしまう
のがあの少年の不思議どころだ。

そこまで考えて、少尉は頭をふるふる振った。酔うにはまだアルコールが足りないはずだ。


「それだよ!あんたらな、あの声で「兄さん」って呼ばれてみろ。ぜっってぇ呼ばせないけど。胸が苦しいぞ。締め付け
られる。ほんとこう、ぎゅっと・・・!・・・・・・・・・アル・・・」

だいぶん酒が回ってきたらしい。小さい国家錬金術師は顔をくっしゃくしゃにして、右手で自分のシャツを胸辺りをわし
づかみにした。苦しそうに息を吐く。
「わからんくはないな。「大佐」と呼ばれるのも、わるくないものな。」

うんうん、とうなずいた上司、こちらも耳まで真っ赤になっている。いったい何杯飲んだんだ。

「この、へ・ん・た・い・さ。弟をなんだと思ってる・・・もうアルは軍になんか連れて行かねえ」
「そんなつれないことをいうな。素晴らしいものはみんなで分け合うべきだろう、鋼の」
「大佐は視線がもう穢れてる」

わあ、上司が本気モードだ。白い手袋出してきた。
ちょっと待て。対する子供も、サイズの小さい上着を颯爽と脱ぐんじゃない。

「落ち着いてくださいよ、あんたたち人間兵器なんだから。けんかなんかしたら都市壊滅レベルですよ」

ああ、鎧がこの場にいたならば。多分なんとかしていたに違いない。
この禍の元凶は今ホテルで一人、兄を心配しているんだろう。何やらこの集まり、いろいろと不毛である。

「あほらし」
げふっと、また酒臭い息を吐いて鋼の天才国家錬金術師は肩を落とした。すっかり鋼のオヤジと化している。
「アルに会いたくなった。帰る。」
とかいいつつ座り込んだから慌てて、抱え起こしてやった。声をかけるが返事はない。

向かう上司は、手袋をしていない手で、威嚇の指パッチンを何度かしながら、小さく「まったくだ。あほらしい」とため息
をついた。パチンパチンとなっていた音を止める。


「ハボックは鋼のを送って行ってやれ。私はもう一軒行ってから帰る。」
「大佐、大丈夫ですか」
「こんなのろけを聞くために来たわけじゃなかったからな。まあ。うまい酒でも飲んで帰るさ。」





ああ、上司の背中が妙にわびしい。
去り際はなんだか大人だっただからまあ、よかったのかもしれない。
背中におぶった子供は、何かつぶやきながら眠ったようだった。

どうせその呟きも弟のことなんだろう、そう考えたら、また余計に侘しくなった。












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