くまたんあるたん・あるたん











「なにこれ」

質問はしてみたけど、頭はぼんやり冴えない。
どれだけ寝てたんだろう。頭が痛いくらいだけれど、体はもっと痛い。
痺れてなんだかそこかしこがじんじんしている。
起きたらやけにあったかかったから、起き上がって自分の姿を確認して、それはそれは驚いた。
ぴょこぴょこ妙な音を立てながらキッチンに行く。見なれた後姿が鼻歌を歌いながら何かを作ってくれている。

・・・楽しそうだね

ぴょこぴょこという音で、ボクが起きたことに気づいていたらしい。
兄さんは、ボクの呼び掛けをきくや、こっちをぐるりと振り向いて両手を広げた。

「アル。そんな冷静に質問を投げかける前に、お兄様におはようのちゅうだろ?」

にへらと笑っていとも軽々とボクを抱えあげた。なんだかぬいぐるみにでもなった気分だ。
ボクは正直言って、「ちゅう」とかより全然もっと、気になることがあるのだけれど。
兄さんのだらしない顔が近づいてきたから、とりあえず、「おはようのちゅう」。

ちゅっと音を立ててするのがボクたちの「おはようのちゅう」である。
音を立てたら、とりあえず兄さんは満足してくれる。
前は大体そのまま顔をがっしと掴まれてしまって引き離すのが本当に大変だった。

「アル、おはよ。体痛くないか?」
抱きしめられて背中をさすられた。
やっぱりボクをぬいぐるみと勘違いしてるんじゃないだろうか。とか思うのだけれど黙って抱きしめられたままになって
みる。


実は昨日、ボク達は大喧嘩をした。
それも原因はボクだ。雨の中、兄さんを迎えに行ったら駅ですれ違ったようで、兄さんは家にボクがいないので大騒
ぎ、軍部を脅迫まがいに出動させた末、ボクは駅長さんとほのぼの話していたところを発見された。
そうして兄さんは爆発した。
一方的な物言いに、かっとして応戦したのが悪かった、簡単に大喧嘩になってしまった。

ボクは逆切れしてしまって兄さんに一撃入れようかと腕を振り上げ、そこでやっと、ボクには絶対に暴力を振らない兄
さんに思い至った。
腕を降ろして、うなだれてしまって、なんだかひどくかなしい気持ちになって。

「ごめんなさい」と謝ると抱きしめられた。
結局はベッドに連れ込まれて昼まで爆睡してしまうほど消耗させられてしまうし。
拒否しようにも罪悪感でそれもできないし。

そんなわけで、昨日は結構な災難だったのだ。


あ、違う。話がだいぶんずれている。
そうだった、ボクは今、ものすごく気になっていることがある。

「兄さん」
「んー?」
「なにこれって、さっき聞いたよね」
「何が」
「こ・れ!この着ぐるみ。寝てる間にボクに何着せたの!」
頭の上のフカフカの耳をつまんでぴっとひっぱってみた。

眼が覚めたら、パジャマの代わりにこの格好だった。
子供が来ているようなクマの着ぐるみパジャマ・パーカー付き。
歩くと、ぴょこぴょこ音が鳴るんだよ。

眼がだらり、とたれた。うわあ、本当にうれしそう。
「んー?」とか、自分の鼻とボクの鼻を擦りつけないでほしい。


「アルタンだ。」
「あるたん。」
「そうだ。その着ぐるみのキャラクターの名前が「くまたん」っていうらしい。お前はアルフォンス。だから、今、お前は、
アルタン!!!」
「・・・ばっかじゃないの」
「・・・馬鹿で結構。」

ぎゅううっと弟の暴言にめげずに抱きしめてくる。
ある意味、偉大なんじゃないだろうか。この不屈の精神・・・。

「アルタンはかわいいなーーー」
「・・・兄さんは変態だっ。おまわりさーん、ウィンリー!!」
「ああ変態だ、ちなみに職場は軍隊です。」
「洒落てる場合じゃないだろっ!」
「怒ってるほっぺがまぁた可愛いなあ!」

わわわわ、何かスイッチが入ったらしい、すごいたくさんキスしてきた。
このまま一日抱えられて過ごされては構わない。
実はこの兄、前科一犯である。

「もっ・・・!着替えるよ」
「だーめ。今日はアルタンを堪能する日だっ!」


ふかふかだなあ、とまたすりつけてきた鼻にため息をつく。
まあいいや、昨日はたくさん心細い思いをさせてしまったようだし。


今日一日くらいはアルタンになってあげようかな。
と、ボクは結局覚悟を決めた。

「アルタンは何が食べたいかな?」
「・・・とりあえず、牛乳が飲みたいな。」

なにその拗ねた顔。
まず第一に口がはれてしまうのを阻止しなくては。

兄さんは、それに関しても前科一犯なんだから。










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