新婚さん

ぜろ!

兄さんの目覚め編を書いてみた。





「どなたか、付き合っている方はいらっしゃるんですか」
うつむいた少女の、小さなつむじを何故か凝視してしまった。うつむいた拍子に、金色なのに何故か柔らかい輝きを
持つ髪の毛がさらりと流れる。
夕焼けの光を浴びて美しく輝くその髪の毛に、ほんの少しだけ誰かを思い出して、エドワードはぼんやりと答えた。
「いや・・・、べつに」
「じゃあ、あの、付き合っていただけませんかッ!」
ぐわっと顔を見上げられて少しのけぞる。きれいだと思った髪の毛はもう、視界の外だ。


「・・・・断る。」



こんな横暴があるだろうか。
ずかずかと歩く軍部の廊下で、エドワードは腹を立てている。



告白の仕舞に少女は、苦い顔できっぱりと拒否したエドワードに、おずおずと「待っていてもいいですか」と尋ねてき
た。

「何を」
「・・・いつか、エドワードさんが振り向いてくれるって」
「迷惑だ」

言葉を無くした少女を置いて、さっさと立ち去った。
心が苛立ってしまってしょうがない。


きっぱりとことわっただろ!何が「待っていてもいいですか」だ!振り向く可能性なんかゼロに近いぞ。俺なんかを待っ
てる間にいろいろすることがあるだろ!新しい出会いもあるだろ。

苛立ってしまう。待つという安穏な日々を、相手に宣告する少女に。

大体、何で俺なんだ。ろくに話したこともないぞ(俺の記憶している限りでは。)
もっと、もっと他に大切なものとかないのか。
守らなくちゃいけないものとか。
一番、大切なもの、
大好きなものは・・・!?

俺は・・・俺の、大切なものは・・・



「兄さん今日ぼんやりしてるね」

はっとして、フォークにさしたブロッコリーを口から取り落とした。向かいに座る弟は「あー」と無機質にブロッコリーの
行方を追った後、悠長に拾ってくれる。
よく見たら、一緒に食べ始めた夕食のはずなのに、アルフォンスの食器はもう片付けられている。どうやら食事を始
め、エドワードが考え事をしてしまってから随分経過しているらしい。

「あー・・・今日シチューだったのにな・・・」
エドワードが本当に残念そうなのが面白かったのか、アルフォンスはちょっと笑って「温めようか」と聞いてきた。首を
かしげて尋ねてくる、弟の笑顔をまじまじと見つめる。
「何?」
「・・・いや。あっためてくれるか?」
うん、とうなずいたアルフォンスにスープ皿を差し出した。自然、皿を受け取ろうと掌を返したアルフォンスの腕の内側
が目に入る。何となく、見入った。

シャツから伸びた腕はしっかりした質感のあるもので、でもそのしっかりとした肩口、首筋を追って、視線が弟のやさ
しい顔にたどり着いた。目があったら、きょとんとしてアルフォンスが目を丸くする。
エドワードはなぜか戸惑って、言葉をなくす。
目の前のアルフォンスは、ワンカットごとに区切られたフィルムのように、ゆっくりとほほ笑んだ。
多分いつものように笑ったのに、おかしいな。と、瞬きを繰り返してみる。

「何か気になることでも?」
キッチンから飛んできた声に、またはっとして「いや、何も」と返事する。「だったらいいんだけど」とすぐに返ってきた。
暖められたスープ皿が、テーブルの上に置かれるのと同時に、口を開いたのはアルフォンスだった。
「兄さん」
「ん?」
「あのさ。最近雨が続いてただろ?うっかり兄さんの部屋のシーツをほしてた時に降られちゃって、まだ乾いてないん
だ。」
「うん」
「だから、悪いんだけど今日ボクのベッドで寝てくれるかな。明日はお互いに仕事があるし、ベッドも大きいから、二人
で寝ても全然大丈夫だと思うんだ」

別にかまわないぞ、と答えようとしたのに、何故か咄嗟に答えられなくてのどが詰まった。けふん、と妙な咳ばらいを
ひとつ。
弟は、それを別の方向に取ったらしい。
「ごめんね、狭くて寝にくいかな。」
「い、いや。別にいいぞ。ああ。全然いい。」
「じゃあ、そうしてくれる?助かる」
にっこりとほほ笑んだアルフォンスに、こちらも笑みを返す。

自分の笑顔が、ひきつっている気がしてならないのはなぜだ。






ベッドに入ると、なるほど二人でも余裕で眠れそうだ。

掛け布団は雨を免れたらしいから、ちゃんと二枚あるし。
そうだ、師匠のところで修行してた頃は二人で同じベッドだったじゃないか。

「兄さん。寝ないの」
「・・・寝るよ。あーさみい。」
アルフォンスはちょっと肩をすくめて、エドワードを面白そうに見てから、ベッドサイドに置かれたライトに手を伸ばす。
手を伸ばした反対側の肩に、しっかりした肩甲骨の形を辿ってシャツにしわが浮いた。
やっぱりライトは消すな、という言葉をやっとのことで飲み込む。


―――いや。
いやいやいや。
違う、これは多分、アルが、


「じゃあ。お休み。」
ぶるぶる首を振るエドワードなど構っていられないと、アルフォンスはベッドに沈んだ。壁側に向かって、エドワードに
背を向けて。
切りそろえられた、さわやかな襟足が現れる。
ふう、と息を吐いた気配が、ブランケットを伝わってこちらに零れてくる。


違う違う、そんな・・・・
アルは・・・


暖かそうな背中がゆったりと力を失って、弟が眠りに引き込まれているのがわかった。
規則的に揺れる背中を見つめる。ライトが消された寝室の暗闇に、やっと目が慣れてきくると今度は、さらけ出された
白いうなじが目に付いた。


冴えて来た眼を、無理やり瞬く。

いや。いやいやそんなはずはない。
アルは弟だし、俺は兄ちゃんだし。
練成した体が心配なんだ俺は。
柔らかくてしなやかな輪郭を触りたいなんて考えがちょっと浮かんでしまったのも、それも全部心配だからで。
優しくて凛としてて心もきれいな弟にいつも心を癒されているのは、家族だから。大切な、家族だから。



「ん・・・」
穏やかに寝息を漏らす、目の前の弟の背中に知らずに手が伸びていて、エドワードは飛びあがらんばかりに驚いた。
手の行き場を探して、結局ブランケットをアルフォンスにかけ直してやることで平生を持ち直す。



そうだ、これは家族の愛だ。普遍で温かみのある・・・・。
そうだそうだそうに違いない。

寝返りを打った。
目が冴えて、眠れないのも随分体があったかいのも。
多分これは愛のせい。
家族の温かい、不変の愛のせい。










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