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「ただいま」
仕事の疲れそっちのけにうきうきと告げたのに、返事がない。さびしくてしょうがなくて、姿を探して歩く。
窓際に、見慣れた輪郭を見つけてほとんど駆けるように近寄った。
「ア・・・」
声をかけようとして、言葉を飲んだ。
弟が本を手にして眠っている。こくりこくりと船を漕ぐ姿を見とれるように見つめた。
弟は、心地の良い場所を見つけると本を片手に居座って、時々眠りこける。そんなところもかわいいんだ、というのは
完全に惚気だが、兄の存在なくして安心しきってくうくう眠る弟の寝顔を見るのは正直複雑である。
背後から、赤く染まった夕焼けが金色の短い髪の毛をオレンジに明るく染める。逆光になるはずの顔さえ、薄く染まっ
て、薄く開いた口が音は出さず、小さく動いた。
口がむにゃむにゃしている。アルフォンスは目をさます直前に、口が少しだけ動く癖がある。
「ふ」
柔らかい呼吸が一つ。目を薄く開けて、眠たげなままで顔を上げた。まだ細められた視界の中に緩やかにエドワード
を認めたらしい。二三度瞬きしてから、目の前の恋人に両手を差し出してくる。
甘えているらしい。寝起きの弟は、時々無意識に甘えてくる。
だから朝は大抵、非常に困る。
構い倒すと仕事だろうと怒りだすし、でも自制なんか人生弟の自分に聞くはずがなく。さらに言えば、甘えてくる弟に
は素直にうれしいができれば自分が朝食の用意もしてやりたいのだ。
でもやっぱり構いたい。構い倒したい。ベッドから出したくない。
とはいえども、弟にはちゃんと朝ごはんは食べさせたい。規則正しい生活を送らせてやりたい。
そう思っているのに、時々しんとした瞬間に、自分の中の強い感情が大きな声で訴えてくる。
腕の中に縛り付けてしまえ。
最近は、自分がよくわからない。
余裕がないのは以前だって同じだったはずだ。
両手を差し出して甘える、弟の座る窓際に向かって静かに近づく。
靴の音が部屋の中に響いて、アルフォンスを抱きしめる時の、布がこすれ合う音が小さく耳にこだました。
弟の、安心したように緩く長く息を吐いた気配が心地良い。
「・・・・ん・・・・おかえり」
首筋に、眠気を擦りつけるように顔をうずめてきた高めの温度に、心がびくりとはねた。
外の寒気を移さないように、できるだけゆっくりと両手で抱きしめる。
「ただいま」
アル、と耳元で息を吐いて呼ぶと、弟はくすぐったそうにすこし身を震わせる。
「寒くないか?ベッドで寝るか?」
「兄さんのほうがずっと、寒かっただろ」
密やかに笑う。そんなときの弟は兄の中の何かを強く惹き寄せて、揺さぶる。
短い髪の毛に鼻を擦りつけると高い体温とどこか甘い匂いがした。
ショートケーキなんかよりもよほど甘い。俺の弟なのになあ、と常々不思議でしょうがない。
「・・・ベッド行くか?」
恐る恐る尋ねたら、弟はやさしく笑った。
「・・・うん・・・その前にご飯食べよう」
「そ、そうだな。」
はは、と笑いながらでも腕を離せない。むしろ強く抱きしめ直した。
お互いの声が、お互いにしか聞こえないこの距離がもどかしい。だけど今この瞬間は、きっと兄も弟も世界にそれぞ
れしか存在しないのだ。
「アル」
「うん?」
「・・・キスしたい」
「・・・うん。」
窓際いちゃいちゃ
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