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「えーと・・・クリスマス、は。終わったよね」
と、つい聞いてしまった。
エドワードは大真面目にこっくりとうなずいて
「もう一回、祝ってもいいけどな」
と、大切そうに明らかにケーキが入っている包みをテーブルに置いた。
外から持ち帰った寒い外気を身にまとったままで、エドワードは嬉しそうに箱を開こうとする。
「兄さん、コートくらい脱ぎなよ」
「あ、そうだな」
といいつつ素直にコートを脱ぎ出す。それでも視線はケーキを追いかけている。
テーブルの上の大きな箱に頭がいっぱいらしいエドワードに、アルフォンスは首をかしげた。日頃はそんなにケーキを
喜ぶ方でもないのに。
今度は手袋を取りながら、「飯は?」と上機嫌に尋ねてきたので「できてるよ」といつものように自然と笑んだ。
キッチンに行き、箱の中身を改める。
箱の中には、やはりクリスマス再び!とでも言いたげな堂々直径21センチのデコレーションケーキと、開けられるの
を今か今かと待っている、高価そうなシャンパンである。
その日の夕食を食べている間、エドワードはひどく上機嫌で饒舌で、でもどこか妙に緊張していた。
「なんで、急にケーキなんか?」
「クリスマスに中尉にうまいケーキの店を聞いた時に、傍にいたハボック少尉がいろいろ聞いてきたんだ。そんなでか
いケーキ買ってどうするんだって。食うにきまってんだろって言ったら、食う時にしっかり楽しめよ、とか言われてだ な・・・」
そこで言葉を切った。表情を窺うようにアルフォンスを見てくる。
「いろいろ、聞いたんだ。」
フォークを握り締めて、兄を見つめ返した顔が硬直してしまう。
いろいろって・・・いろいろとは、なんだろう。聞くのも恐ろしい
切り分けた真っ白なケーキにフォークを入れる。アルフォンスは甘いものは好きな方だ。
「とりあえず、アルにケーキを食べさしてほしい。」
ぼと、っと口に含もうとした大きなひとかけらがまた、皿の上に音を立てて落ちた。原因のセリフをこぼした兄はさもも
ったいないとでも言うように「あ・・・」と小さく息を吐く。
「まさか、兄さん。そのためにケーキを買ってきた、の・・・?」
「・・・・・。」
気まずそうに逸らされた視線に、アルフォンスはほとんど仰天した。
まさか、これはあれだろうか。あの、恋人同士で「あーん」とか、そういう・・・?
「いいだろ!定番だろ!!ここは欠かせないところだろっ!!!」
「付き合ってるんだから?」
ああ、このフォークをあの口に刺してしまいたい。そうしたら少しは言葉をつぐんでくれるだろうか。
恋人とかの前に兄弟だよ、家族だよ、同姓で同性なんだよと、心のつぶやきが漏れそうになったけれどやめた。
そもそもそんな呟きは二人の前に今更だし、エドワードがもう大きな目をぎらぎらさせて机に体を大きく乗り上げて、臨
戦態勢真っただ中だったからである。
「・・・それで、いいんだね?」
「うん?」
「食べさせてあげればいいんだろ?」
「・・・いいのか!?」
金色の瞳がまばゆく輝いた。これはかなり恥ずかしいけれど、本当に恥ずかしいけれど、でもまあかわいらしい恋人
同士のざれあいだと考えればいいんじゃないだろうか。と、必死に正当化の努力。
ケーキを一掬い。
ついつい生来の愛想のよさで、にっこりと微笑んで
「はい・・・あーん?」
「ん」
何故かエドワードは照れた。それでも差し出されたケーキをしっかり口に含み、頬を赤くして視線をテーブルに落とし
て、口をもぐもぐさせながら「そうか、そうだよな」とこぼしている。
何か腑に落ちないらしい。
「何、イチゴのとこがよかったとか?」
「いや・・・」
アルフォンスが、何気なく自分の口にもケーキを運んだ時、エドワードはそのフォークの動きを目で追うように視線で
追ってきた。
「そうじゃなくて」
「ん?」
フォークを持つ手を力強く取られる。がたん、と椅子が倒れる音どこかでして、唇をふさがれた。
ちょっとまって、今はケーキが口の中に・・・
そう言おうとして、エドワードのケーキ購入の趣旨にやっと思い当たる。
「食べさせてほしい」の本来の意味に行きついた。
あまり噛まれていなかった口の中のケーキは、原型を残したまま兄の口内に巧みに導かれてしまって、おまけに口
の中に拡散した生クリームまで生暖かい感触にからめとられていく。
思わず両目をぎゅっとつぶった。
口のはじから、一筋、温かいものが流れてあわててしまう。兄はお構いなしに、角度を変えて啄んでくる。
「ちょ・・・ん」
「・・・ん、まい」
「ッ・・・」
嬉しそうに上唇を軽く噛んでから、やけに甘い唇が離れていく。目の前でうっとりと眼を細めたエドワードの口まわり
が生クリームで真っ白で、頬にはスポンジのかけらが付いているから、おそらく自分も大差ない悲惨な状況に違いな い。
瞬きもできずにいると、エドワードはアルフォンスの頬についていた生クリームをひどく甘いしぐさで拭った。
「ついてんぞ」
と言って嬉しそうにそのままその指を口に含む。人相が変わるほどに表情が蕩けきっている。
「にいさ・・・」
「ん?・・・・な、もう一口」
そうしてまた覆いかぶさってくる。
ケーキを食べさせるという当初との趣旨のずれは、もはや気にしないらしい。
ちゅっと、音を立てて唇が離れて、けっほ、と呼吸を正してから、体を起こした。
兄の表情はつるつるぴかぴか、顔は生クリームででろでろだが、この上なくうれしそうである。
「ま、満足・・・?」
「ん。」
口の周りを拭くしぐさはひどく子供っぽい。今にも「もっと」と言われそうで、即座に立ちあがった。テーブルの残ったケ
ーキに目をやる。
「でも、こんな大きいの食べきれそうにないね。」
何気なくそう言って隣のエドワードの顔を見返すと、エドワードはなぜかちょっと緊張した面持ちで、大真面目に
「ああ、他に使い道あるから」
と頭を掻いた。
窺うようにこちらの顔をちらりと見る。
あ、これはやばい
と、弟の直感が咄嗟にアルフォンスに大きな声を出させた。
「あ、でも、お腹すいてきたかも。全部食べれるかも、意外と!!」
「いや、さすがに無理だろ。これをさ、」
「いやいやいけるよ!すごいおいしそうだなぁ!!」
つい、フォークを握る手に力がこもった。エドワードはちょっと眉を顰めて拗ねたような表情をしている。
「お前をデコレーションしたい」
などと言われたらたまったものではない。
そんな言葉も、エドワードの真摯で真剣なまなざしで、ひどく悲痛に頼まれた日には。
いかなアルフォンスでも断りきる自信は、ない。
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