新婚さん

さん!






街の夜景がぐんと明るくなった。
カレンダーをめくったら、もう12月である。
あ、そうかとアルフォンスはうなづいた。
そういえば、もう年の暮れ。ばたばたして気付かなかったのだけれど、そういえば「クリスマス」というのは祝うものだ
ったな。
晴れて人の体に戻ってから初めてのクリスマスである。旅の質素な暮らしが長かった兄弟だから、ろくにクリスマスを
祝ったことがない。

今年は、何かお祝いしてもいいかな。

こうして、街を彩るイルミネーションと吐く息の白さが、アルフォンスにちょっとした思いつきをさせたのだ。
他意のない、特に意味のない、イベントへの気持ちだけの装飾。


「兄さん」
「あ?」
エドワードはたった今アルフォンスの背中を見つめていたらしい。外出着を着こみながら振りむいたら、意図せず目が
合った。
「クリスマス、欲しいものとかある?」
愛おしい弟の、ちょっと首をかしげた突然の質問に、二・三度瞬きをしたエドワードの顔が噴火せんばかりに一気に赤
くなったから、アルフォンスには、エドワードが何を一番に欲しているのかすぐにわかってしまったのだ。

・・・聞かなければよかったかな・・・・

視線をはぐようにそらしたエドワードから、自分もまた視線を外す。
「とくにいらね・・・」
「あ、そう?今までクリスマスとか祝ってなかったからさ。今年は何かしようかと思ったんだけど。」
「そんな気遣う事ねえよ。でも、アルがそう言うなら普通にケーキでも買ってくる。」
「ああ、うん。じゃあボクも何かそれっぽもの作ろうかな。」

気をそらすようにジャケットを着こんだ。その背中に、刺さるような視線が痛い。
今すぐにでも後ろから抱き締められて押し倒されてしまいそうな重圧を感じる。恐る恐る、振り向いたらやはり兄の目
はこちらをじっと見つめていた。
「アル。」
「・・・ん?」


お前が欲しい


とか、言われたら・・・困る。それは困る。

この質問は、本当に単なる質問なんだし、確かにすべてを、ことさら弟の言葉に関しては深く考えてしまう兄のことだ
としても、軽く流してほしいところなのだ。


「おま」
「そうだシチューにしよう!!やっぱりクリスマスはシチューだよね、兄さん。」
「・・・おう」








結局、クリスマス当日に兄が買ってきたケーキはそれはそれは立派なもので、予約を取るにもコネが必要なほど、セ
ントラルでも有名な店のものだった。
見上げるほど高さのあるケーキがデリバリーされた時の弟のぽかんとした顔に、エドワードは笑った。
「相当うまいらしいぞ、ここのケーキ。中尉に聞いたから間違いねえ」
「へえ、おいしそうだもんね。」
箱が開けられて、顔がほころぶ。兄に何か言おうとしたら、ふっと、顔が近づいて唇が触れてきた。ゆるく腰を引き寄
せられて体が密着する。

・・・これは・・・・すっかり恋人同士のクリスマスだな・・・まあ恋人同士なんだけど、確かに。


席に着いて、食事をする。
うまいうまいとしきりに口には運んでいるのだが、どこか兄は弟が話しかけてもぼんやり上の空である。

「アル。」
「うん」
気がついたら、向かいの兄がもう深刻な顔をしている。

「プレゼント、用意した」
「え、兄さん、特にいらないっていったじゃないか」
「俺はいらねえけどさ・・・」
ごそごそ何やってるかと思ったら、手のひらサイズの箱が、ころんとポケットから。アルフォンスは、キョトンとした表情
でエドワードを見つめた。兄は故意に視線をそらしている。みるみる赤くなって、ついには「ん!」と、弟の掌を乱暴に
取った。

「わー・・・」

薬指にやけにするりと納まった銀色の物体を見つめる。
ひどく照れて、はにかんだような顔でエドワードを見上げると、目の前の恋人はすっかりゆであがっていた。
思わず笑ってしまう、それから、また薬指の小さな拘束を見た。
これは、何リングに当たるんだろう。こ・・・こんやくゆびわ?
「ありがとう」
そういったら、エドワードは機械鎧の右腕を緩慢なしぐさでのばして、弟の左手のひらを優しく握った。


機械なのに。
金属の腕なのに、どうしてこの人はこんなにも愛おしむ様に、触れることができるのだろう。
どうしてこの人はこんなにも「お前が大切なんだ」といくつもの瞬間で告げることができるのだろう。

少し頬が赤くなっているかもしれないな、と思いながら兄を見上げた。
見つめ返してくる瞳が慈しむように細められて、手の甲に唇を当ててくる。
「メリークリスマス。」
「ん・・・」

だけどこういう、喜ばそうと一生懸命なところとか、不器用なところとか。
緊張を隠しきれないところとか。
兄弟だからずっと見てきたことではあるけれど、きっともう慣れ切ってしまっているから逆にひどく愛おしいのだ。

機械鎧の掌に、指輪を通されたばかりの掌をからめる。

「ペアで買ってきてるの?」
と聞くと。うん。と大真面目に頷く。
「ボクも兄さんにつけていい?」
その言葉に、向かいに座る兄は気の毒になるほど、にんまりと嬉しそうに笑った。
指輪はひどくシンプルで、だからこそ実用的だ。
薬指につけると、瞼に唇が降りてくる。

「兄さん」
「ん?」
「クリスマス、なんにも用意してないんだ、ごめん。何か欲しいものあったら、なんでも・・・」
言い切る前に抱きしめられた。ぎゅうぎゅう締め付けられる背中が苦しい。


「おま・・・お前が欲しい」

と、エドワードは噛んだ。
アルフォンスは笑いを耐えた。
ぶるぶる震えていると、しびれを切らした顔がじっと見つめてくる。
だからそっと、微笑んだ。







唇を重ねたら、やっぱり少しドキドキする。エドワードが頭の後ろを支えるように手をまわしてくる。
深いキスは初めてではないのに、こんなに静かな部屋の中では音が響いて気恥しい。
「ん・・・っ」
酸素を求めて息を吸おうとしたら意図せず声が漏れて、ますます恥ずかしくなってしまった。気持ちばかりがわたわた
している間に、ゆっくりと体が押し倒され、背中がシーツにつく。

探るように、掌が背中に触れる。

「あっはは」
アルフォンスは笑った。
ひどく快活に、朗らかに、純粋なくすぐったさで。
「やっぱだめだ、くすぐったいし、なんか照れるよ兄さん・・・」
そう言って、笑いの後の涙目で兄を見つめたら、エドワードはこれまでに見たこともないほどの真剣な目つきをしてい
る。瞬きもしない。

そうか忘れてた、兄さんは物事に集中すると、それしか見えなくなるんだった・・・

「あの・・・」
もう一度、口づけられて言葉が遮られる。
それからアルフォンスの耳元に口を寄せて、エドワードは息を吐き出すようにゆっくりと言葉を吐いた。
「アル・・・好きだ」
「えと・・・」
背中に粟が立つ。言葉が出せなくなった。



だけどたくさんの、いろんな気持ちをくれるこの人に。


「ボクも、好きだ。大好きだよ兄さん。」

















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