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「あれ、兄さん。おはよう」
せっかく物音をたてないように気をつけて部屋に入ったのに、普段は眠っているエドワードは今日はもう起きていて、
服まですっかり着込んでしまっている。
眠る必要のないアルフォンスは、たった今夜中の散歩から帰ってきたばかりだ。これから兄が起きるまで、散歩で汚
れてしまった鎧をオイルで磨くのが朝の日課である。
「お・・・アル。おかえり」
「今日は早いんだね。あれ?」
そういって部屋に入ってから、アルフォンスはぎょっとした。部屋が少し片付いている。昨日開けっ放しにして散らかし
ていたはずのトランクはきれいにしまわれ、ベッドのシーツまで取り除かれている。
洗濯場をのぞくと、長期滞在者要に備え付けられた洗濯機から稼働している音が、ごうんごうんとせわしげに。
「兄さん、早く起きた上に洗濯してるの!!?珍しい!」
「え・・・たまには、な。」
そこまで会話して、アルフォンスはやっと兄の調子の悪さに気がついた。
洗濯場を覗き込んでいた首をかちゃり、といわせながら振り向く。エドワードはベッドに腰かけて、居心地悪そうにうつ
むいている。
元気がないのかな
日頃機嫌の上下がはっきりしている上に意外と低血圧な兄のことだから、朝の不安定はよくあることだ。
ただ、そういうときはベッドの中で転寝をむさぼって、なかなか出てこないのが常なのだが。
機嫌を伺うようにできるだけそっと、エドワードの隣に腰かける。ベッドがぎしりと軋んだが、兄はぎしりと硬直した。
元気がない・・・というよりは、何かやましいことでもした時の反応か。
「あれ」
兄の金髪が、朝日を浴びて輝いている、そのひと房を取って見る。エドワードはあからさまにアルフォンスから視線を
伏せて、顔をそむけた。
弟はそれには気付かない振りで、はて一体この兄は自分に隠れて何をしていたのだろうかと考えている。
「シャワーも浴びたの?朝から?」
「・・・おぅ」
つい癖で、髪の毛を取っていた掌で、そのままみつあみをちゃっちゃと編み始めてしまう。
寝起きの悪い時は、アルフォンスが兄の髪の毛を結うのが何となく習慣になっている。
「兄さん、変な夢でも見たの?」
「んー・・・」
言い澱んで、エドワードは結局小さくうなずいた。
「どんな夢?」
「・・・」
いいにくいらしい。別に機嫌が悪いというわけでもないから、怖い夢ではなかったようなのだが。
「当ててみようか」
歌を歌うような調子で、アルフォンスは続けた。結い終わった髪の毛を止める。
「牛の分泌した白濁色の液体を飲む夢!」
「・・・牛乳だろ」
「・・・せっかく伏せたのに」
結い終わると肩をぽんと叩いて終わった合図を出す。いつもなら嬉しそうに振り向く兄は、今日は振り向かない。
少し、うなだれているようにもみえるかなあ。
背中に力がない、何かがショックだったらしい。
「で、当たってるの?」
「・・・・当たらずとも遠からず・・・・」
相変わらずいいよどんでいる。
いよいよこれは様子がおかしいぞ
「もしかして、夢の中で、飲んだ、の・・・?」
「・・・・飲んだって、何を?」
「だから、白濁色の液体」
「・・・・・・・」
「飲んだんだ!」
アルフォンスはこれ以上ないほど仰天した。鎧の頭ががちゃりと大げさにかしいで、思わず後ずさり壁にがっちゃんと
派手に背中を押しつける。
「・・・じゃ・・・ない。」
椅子に座っている兄が、うつむいて顔を手で覆いながら何か呟いたが、驚くアルフォンスにはまったく聞こえなかった
らしい。
大きな愛らしい鎧は、首をかちかちかちかち、と細かく震わせて頭を抱えている。長い装飾が揺れて、ホテルの壁に
ふよふよ音を立てて首を振る度に当たっている。
「兄さんが・・・牛乳を・・・牛乳を・・・兄さんが」
それは調子がおかしいにもうなずけるなあ、と何度か呟く。
ゆっくりと、気を取り直してエドワードに近づいた。エドワードは相変わらずアルフォンスに背を向けてうなだれている。
「・・・夢の中の牛乳、おいしかった?」
その質問に返事はなかった。
だがしばらくしてから、エドワードはかすかに頷いた。
「いいことじゃないか!本当に飲めたらいいね!」
その言葉に、エドワードは首をもぐような勢いで振り向いてまじまじとアルフォンスを見つめた。何度か瞬きしてぶるん
ぶるんと大きく横に首を振る。立ち上がって胸を張った。
「アル!」
「うん」
「飯!食いに行くぞ・・・!!」
どかどかと足をふみならすエドワード揺れる三つ編みを視線で追いながら、
今度は何をそんなに焦っているのかな?
と、ベッドサイドに取り残された弟はかちゃり、とひそかに首をかしげた。
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えへ☆
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