PARC



(10)









ひどい痛みで目がさめた。あまりの痛みに頭が錯乱し、室内を見渡すアルフォンスの瞳が不安で揺れた。
「・・・此処は・・・」
そこはどこかの宿のようだった。洗いざらしのリネンの臭いが鼻を突く

体が熱い、腕を折られたことを思い出して顔をしかめてから、自分の右腕を確認しようとした。視界が揺れて定まら
ず、頭を軽く振る。
焼けるような痛みを訴えてはいるものの、右腕はきちんと手当てされているようだった。自分の腕の大きさよりも4倍
ほどの太さに包帯を巻かれているから、おそらくギブスもきちんとつけられている。

「死んだ者を生き返らせるすべを、君は知っているね」
「知りませんよ」
相手をできる限り強く見据えて答える。おそらく右腕の痛みから発熱し、瞳さえ熱を持ってむくんでしまっているから、
目に力が入っていることは分かっているけれど。

「ボクは一度も死んでなんかいない。肉体を失い、取り戻した。それだけのことです。魂が・・・」
男が目を細めた。そうするとまるで笑ったようだった。右手をゆっくりと伸ばして柔らかくアルフォンスの頬に触れてく
る。
「この体が、ひとによって作られたものとは・・・」
「違う。この体は作られたものじゃない。扉の向こうに在ったものを、賢者の石を使ってこちらに移しただけのもので
す。」
麻酔が切れて、右腕の感覚が冴えてきている。音を立てて耳元の静脈が脈打ち頭がひどく痛んだ。瞳を閉じる。熱
が体でうずいて吐き気がする。頬に触れる男の掌は相変わらず冷たく不愉快だ。体が淵に立っているようなめまいを
感じる。


淵に立つと、自分に肉体をもたらした賢者の石の紅い光が容易に浮かび上がりすべての感覚からアルフォンスを遠
ざけようとする。

眉をしかめた。めまいのする頭を軽く振ると、頭上から男の声が降りてきた。

「そうだ」

男の言葉に強く首を振って、はっと眼を見開いた。左手で頭を押さえる。賢者の石の光を思い描いたり意識すること
は兄に強く禁じられている。
頭が割れんばかりに痛み、音が聞こえなくなりそうなほどの耳鳴りが、自身の脈に合わせて響いている。

「そうだよ、アルフォンス・エルリック」
「・・・っ」

強く二の腕を掴まれて、動きを封じられる。近づいてくる男の顔に、咄嗟に体が反応して避けようとした。
実際は少しも動けず、逆に体を抑え込まれた。

男の熱のある吐息が触れるほど近くにある。本能的な嫌悪感に、胸がやける。
「そうだ、錬成の時を思い出せ、君は」
げほ、と大きくせき込んだ。すでに言葉と意識は混濁し、目の前は赤と白世界に明滅している。

「君は、賢者の石なのだろう?」
「―――あ、あっ・・・」

男の左手が、背中に刻まれているはずの血印に触れた瞬間に焼けるような熱さを感じた。
背中が撓る、動く手で覆いかぶさる相手の体を精一杯押したがもはや意識はここにつながれておらず、ただ、ひとつ
のことを想った。





――――兄さん




祈りでも無く、救いを求めるでもなく、たった一つの、自分をここにつなぎとめてくれるもの





――――に、





「賢者の石と一つになれば、私の生命はきっと―――」









そこまでだった。
焼けつくような熱さも、痛みも、めまいも。
アルフォンスを繋いでいたすべてのものが途切れて砕けた。


















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