|
ぱつん、ぱつん。
しゃこしゃこしゃこしゃこ。
小さな部屋の中に、ひそやかな音が響いていく。
単調なようで時折変調して、耳を楽しませ、心を弾ませる。
ぱつん・・・
手元にあらわれた躊躇の瞬間を、耳で感じ取る。
兄が何かを迷っている音だ。おそらく、自分に声をかけることを躊躇している。
「なあ、アル。」
「ん?」
手を止めずに、返事を返した。沸き立つような抹茶の香りに、今は、少しだけ陶酔している。
「好きなやつとか、できたか」
しゃこ・・・
アルフォンス・エルリックは、16歳には大きいといえる瞳と、長い金色のまつげをひらりと返して、兄を見た。
目の前にいるのは、実の兄のエドワード・エルリック。17歳相応の体を居心地悪そうに心持小さくして、手に持った茎
を、遊ぶように細かく刻み始めた。
ぱつぱつぱつん、ぱつぱつ
「兄さん。茎がかわいそうだよ、やめて。」
茎をもてあそぶ音がやんだことを確認してから、アルフォンスはまた目を伏せる。器に手をやって、兄の質問に答えて
いないことに気付いた。
「いないよ。」
はあっ。とため息をつきながら答える。茶をたてているときには心を乱したくないのだけど。
「そっか」
ぱちん。
おや?
やけに澄んだ音だ、とアルフォンスはエドワードの顔を見た。
兄は口の端をちょっと上げて笑っているように見える。
それからまた、二人とも黙った。茶ができて兄に差し出したときも、エドワードが全く反応を返さなかったから、また集
中してしまったのだと、アルフォンスはそれを自分の方に引き寄せた。
ぱちん。
狭い和室に、抹茶の清潔な香りと鮮やかな華の香りが沸き立つ。こくんと自分の立てた茶を飲み干して、アルフォン
スは目を細めた。
中庭に雀が止まっている。何度か囀ってから、つがいになって飛び立ってしまった。
ちょっと寂しく思ったそのとき、遠くで学校の終業のベルが響いた。
兄弟の使っている和室は客間扱いで、音はここまでは届かない。学生という日常を置き去りに、響きわたるベルにア
ルフォンスは正座していた膝を抱えて、目を閉じた。
ぱつん。
ああ。いい音だな。
*******
短い始まりですがひっそり続きます・・・
|