PARC



(1)









その少年に会ったのは日曜の公園でだった。
徹夜明けの冴えない頭にも、朝の光はやさしく注いで一日の活力をくれる。
ロイ・マスタングはその朝の光の中を、乾いた公園の砂利の上を音を立てながら歩んでいた。

空は秋晴れで、天高く透き通っている。少しずつあかみを増していく楓の木々が徹夜明けの目に優しい。
頬に触れる風の中にはもはや少しも夏の気配が残っていない。むしろ、肌寒ささえ感じるほどだ。

公園の中央にある噴水に向かって歩を進めた。
夏には涼しげに水しぶきをあげ、公園のシンボルと化す噴水も、今ではもはや寒々しい。
夏を過ごして蝉の鳴き声を失った公園はひどくさびしげに佇んでいる。その寂しさがなんとなく心地よくて、マスタング
はすこし休憩を取りたい気持ちに駆られた。

先客が一人。

幼い少年が、ベンチに腰をおろして群がる鳥に餌を与えている。時々上がる少年特有のすこし高い笑い声が、とぎれ
とぎれ聞こえてたから、マスタングはふと、その少年を見つめた。
遠くから見詰めたのに、少年はすぐにその視線に気づいたらしい。

目が合った。
最初は、その視線が気になった。
ふと交錯されたその瞳の中に、はじめて会う人間には見られない何かを見つけた。知っている人間を町の中で偶然
見つけた時のような。

金髪を短く切った、金色の眼をした少年だった。年は10歳くらいだろうか。
その金色の瞳が、マスタングを見た瞬間、ひそかに見開かれたのだ。すぐに目を伏せて、その視線は足もとの鳥に
落とされてしまったけれど。

歩をゆるめずに少年に近づいた。少年の足もとにいた鳥たちが、マスタングの気配に一斉に飛び立つ。
少年とまた目が合った。マスタングがおどけて肩をすくめて見せると、優しそうな瞳が細められて、その少年のまとう
やわらかな雰囲気に気づかされた。

まだ朝露をまとうベンチに腰を下ろす。
少年はベンチからほんの二歩離れた所に変わらず立って、鳥たちを呼び戻そうと空を見上げている。
鳥の群れは公園の木々に仕切られた、狭い青い空を一群になって旋回した。

鳥たちが戻ってこないとわかると、少年は空に向かって伸ばした手を降ろした。何となくしょんぼりした格好になって
いて、その背中にはひどく哀愁が漂っている。

「早起きだね」

小さな背中に話しかけると、キョトンとした顔で振り返ってきた。短い金髪がふんわりと軽やかに揺れる。
そうだ、これが年相応の雰囲気というものだ。
隣にスペースを作って、勧めた。少年は嬉しそうに座った。

「君はよくここに来るのかね」
「そうですね、セントラルに来た時はいつも。」
「私は今日が初めてだ。朝の公園とは気持ちのいいものだね」

はは、と少年ぽく笑って、金色の目を細めてこちらを見つめている。
既視感、でも、とてもあいまいな
一体どこで、どんな状況でこの少年と会ったのだろう。
覚えていない自分に違和感を感じた。伊達に出世頭ではない。人の顔は一度見れば絶対に忘れないのに。

「君。名前はなんだ?どこかで会ったことがあるかな。」
少年は目を少し見開いた。顔には微笑みをたたえたままだ。

「まるで口説いてるみたいですね」
そう言ってまた笑った。少し高めの柔らかい声。
ああ、やはりどこかで聞いたことがあるのだ、間違いなく。
少年は、ベンチからすっくと立ち上がり、何歩か離れるや否や、手に握っていたパン屑をその場にばら撒いた。
鳥たちががいっせいに足もとに群がってくる。

ベンチにまだ座ったままのマスタングを振り向いて告げた

「朝の緑の香りがこんなにやさしいのを知るのは、ボクも今日が初めてですよ。ロイ・マスタングさん」







やはり会ったことがあるはずなのだ。


一体誰だったのだろう。茫然と「では」といって軽く会釈して、立ち去っていく小さな背中を見つめた。
体は幼いのに、言葉遣いや仕草はその幼さにひどく不釣り合いで、どらかというと青年のような穏やかさ。
穏やかな、というよりはでも、儚げ、という方が近い。

明日も彼はここに来るだろうか。












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