光満ちる暁














連れ込まれるように、ベッドに押し込まれた。少なからず焦るアルフォンスの腰に、エドワードが乗りかかってきて、急
くようにシャツを脱がし始める。その手を掴んで、戸惑うような表情でエドワードを見つめた。
「なんだよ」
エドワードの顎から滴る汗が、アルフォンスの頬を濡らす。

兄は正体を失ってしまっているのだ。でなければこんな・・・

「脱げよ。脱がなきゃできねえだろ」

顎を引いて、兄を見つめた。
「落ち着けよ兄さん」
「嫌だ」
唇が、すがるようにまた触れてくる。すこし震えているような動きに、アルフォンスはエドワードの肩を掴んで、できる
だけ強い力で体を起こした。
胡坐をゆるく掻き、両膝に手をおく。胸ははだけたままだ。今はシャツを直している場合ではない。
「どうしたの?何かあったの」
「・・・・」
ふてくされたような表情をしている。何か攪乱するような夢を見たのか、それともこれがまさか正気なのか判別できな
くて戸惑う。

アルフォンスの体が戻ってからの兄は様子が少しおかしい。自分の一部であったアルフォンスが切り離されて独立し
てしまったからなのか、あるいはほかの何か、からか。だとしても実の弟と体の関係を持とうとするなど、正気の沙汰
ではないだろう。

「・・・どんな夢、見たの?怖い夢?」
膝の上に置かれて、強く握り込まれているエドワードの左手の上に、できるだけ穏やかに掌をおいて、目を見つめ
た。
「・・・」
エドワードの沈黙は、肯定と同じだ。だから、アルフォンスは言葉をつないだ。

「何が怖いの」

夢の内容を思い出したのか、エドワードは顔色を失って、金色の瞳が少し揺れた。
「お前が・・・」
「ボクが?」
それ以上兄は何も言わなかった。そっぽを向いてしまった顔は、長い前髪で表情を測れない。
「ボクが、いなくなる夢・・・?」
膝の上に置かれた掌から兄の動揺を読み取る。

「お前には、わかんないだろ。どれだけ怖かったのか・・・」
わかるよ、という言葉は呑み込んだ。
兄さんは、二度もボクを置いていこうとしたじゃないか。
無機質に魂をしばりつたままの弟を置いて、自身を捧げてまで守ろうとした。そうしてそれが弟を救う手段だと思いこ
んでいた。


にいさん。


しっかりと呼べば、どんな時でもエドワードが自分を見てくれることは分かっている。不安げに揺れる金色の瞳から、
目をそらさないように見返した。

「ボクが、兄さんのものになればいい?」
いつも強くつりあがる眉毛が苦痛を訴えるように下がって、情けない顔になる。口は唇を噛むように引き結ばれてまる
で拗ねているようだ。

アルフォンスは苦笑した。

「そうすれば、怖くなくなる?」
少し笑んでみせた。首をかしげた姿は以前の鎧の姿のままのようで、でも優しく上がった口元は母のようで。
エドワードの顔が泣きそうに歪み、すぐさまうなだれて長い前髪に隠された。
アルフォンスはゆっくりと目を伏せて、自分の脱ぎかけのシャツを見る。

「いいよ、やろう」

シャツに手をかけた。






首筋をぞわりとした感触がつたう。アルフォンスは息をのんで耐えた。

「いいのか」
触れてくる掌が細かく震えている。本人は気付いていないのか、長い前髪に表情を隠している。

本当に怖いのは、何?

「いいよ」

兄の長い前髪を両手で梳いて、顔を覗き込んだ。覗きこんだエドワードの視線は揺れていて、ためらいがちにアルフ
ォンスの目を見つめてくる。
「こんなことするために・・・からだ、戻したわけじゃないだろ」
アルフォンスは笑った。今更何を言い出すのか
「怖かった」
お前、名前呼んだのに。何度も、何度も
「うん・・・・うん。」

慰めるように両手を伸ばして、エドワードのたくましい体を抱き締める。こんなに強い体を持っているのに、ひどく臆病
な心を持っている人を、まだ細い二本の腕で。
アル、と耳元に優しい声が届いた。だからきっと、違うのだ。兄が本当に怖いのは・・・

ごめん、と自然に口から言葉がでた。
「ごめん、兄さん。不安にさせて。でも」

言葉はひどく不器用でもどかしい。だけどたぶん、伝わればいい。
「どこにもいかないよ」

そう言ったら、エドワードの動きがぴたりと止まった。
アルフォンスの背中に、苦しいほど腕をまわして肩に顔を押し付けてくる。
前髪が、頬に触れる。アルフォンスは、頬を兄の頭に擦りつけるように、力を込めて強く大きな背中を抱きしめた。
背中が大きく震えた、肩が濡れていく。
冷えた体にそれは不思議に熱いほどで、自然とアルフォンスの口から言葉を零れさせた。
「兄さん、ありがとう」
「ぁりがとうとか・・・言うな」
苦しそうに嗚咽して、エドワードははっきりとそう言った。
うん。と返事はしたけれど。零れだしてくる言葉を押しとどめることができなくて戸惑う。


でも、ありがとう


そう言ったら、熱い涙が自分の頬を伝った。肩口にとどまる、金色の長い髪の毛にゆっくりとしみこんでいく。

小さな声が零れて、胸に、温かいしずくが落ちる



ありがとう、とまた言葉にしたのは、弟だったか、兄だったか。












おわ・・・おわり・・・です
すみませ・・・
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