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弟が突発的にかかった風邪が、見事に看病していた兄にうつった。つい昨日までうんうんうなっていた弟は、ケロリと
した様子で今は兄をかいがいしく看護している。
今度はエドワードの意識がぼんやりして浮上したり落ち込んだりしている。しながら、昨日のことを、弟が覚えてない
ことに安心した。
なのに、行き場のない想いが苦しい。
薄く眼を開くと、弟のシャツの袖が見えた。
洗面器を持ってきたらしい。思わず力の入らない腕で弟のシャツの裾を掴んで軽く握る。
熱い、ぶれた視線に心配そうな弟が垣間見える。できれば視線に入れたくないのにやはり見つめてしまった。
視線に気付いたアルフォンスは、短い前髪を少しだけ揺らして
「大丈夫?」
と、いたわるように少し笑ってくれた。
その、細められた目、口、表情、声さえも。
ぜんぶ。
夢中になって裾から離して手を伸ばしたら、驚いたようにすぐに握ってくれた。顔が近づいてきて、目をのぞきこまれ
る。
「つらい?」
つい、頷く。
質問の意味も、この場の状況も、全部理解しているつもりだったのに。
「何がいるかな。タオルを変えようか。」
弟が、目の前で首をかしげた。
昔も、この弟がよろいだった時もこんな風に首をかしげていたな、とふと思い出す。
自分が熱を出したり怪我をすると、アルフォンスは一生懸命看病してくれた。いつもそばにいて、言葉づかいはひどく
穏やかだった。本当は熱も感覚もわからない弟が誰よりも一番不安だったはずだ。なのにそんな仕草を全く見せよう ともせずにただ安心させようとしてくれていたことを思い出す。
あの時、この存在は間違いなく自分だけの。
おれだけのものだったのに。
「タオルを取ってくるね」と立ち上がった弟の手を離さないように強く握り直す。
いま必要なのは、きっとタオルとか薬とかじゃなくて、何よりも
「兄さん」弟は少しあわてたようにベッドサイドに膝をついて、エドワードの顔を覗き込んだ。エドワードが掴んでいる反
対の手で、兄の頬にやさしく触れる。
「わ、何、そんなにつらいの」
目を丸くした弟の顔がにじんで、見えなくなる。エドワードは歯を食いしばった。
伝い落ちたしずくを弟の手が柔らかく拭ってくれる。暖かい体温が頬を撫ぜる。
「だれ、も・・・」
「ん?」
顔が近い。気配が、ここに、目の前に
誰にも渡したくねえ・・・
また、思いがこぼれて頬を伝い落ちていく。弟は絶えずそれを拭っていく。
どこにも、行かないでくれ
と、声も漏らさずに口をだけ動かしたのに、アルフォンスはそのこぼれもしなかった言葉達ををたやすく拾い上げて、
優しく首をかしげてやっぱり、微笑んだ。
「どこにも。行かないよ」
うそつくな。
自分の口から、小さく嗚咽が漏れたことに驚いた。
あまりに情けなくなって、拗ねたようにシーツを掴んで体ごと丸まった。驚いて自分を呼んだアルフォンスに背を向け
る。アルフォンスは少し困って、でもなだめるようにエドワードの丸まった背を二回、ぽんぽんと撫ぜた。
「早くよくなってね」
その掌が触れたところから、なによりも熱い熱を帯びていく。
治癒するためには眠らなければ、目を閉じなければならないことなど知っているのに、そこに弟が居るのだと思うとひ
どく頭が痛んで、眼をそむけることすらできない。
「どこがすきなんだ?」
と、以前たずねた。
弟はただ首をかしげて、そばにいると居心地がいいのだとうつむいた。
ああ、なら・・・
そこまで考えて打ち消す。その先の仮定を打ちのめすことなど、ごく簡単なことだったから。
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これで「FEVER」終了・・・
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