せんすれす さん





「いいか、アルフォンス。兄ちゃんの記憶が確かならば、誕生日というものは家族で祝うもんなんだ。」
「兄さんの記憶は確かじゃないだろ、記憶ないくせに」
つい、以前の兄弟である時のような物言いをしてしまって後悔する。
エドワードが悲しそうな顔をすると、結局どこまでも心根の優しい弟は少し慌てた。

「…ごめん。」

なんでボクが謝ってるんだろう、そう考えたらなんだか悔しくなってきて、弟はふてくされた。

明日はお前、誕生日だよな、スケジュールはもちろん開けてるよな!!

などとふんぞり返ってすごむ兄に、たしなめるつもりで反論したら、これだ。

記憶も無いのに弟の性分も性質も分かりきっているエドワードは、うなだれた弟に内心ほくそ笑んでいる。

「謝んなくていい。悪いと思うならそれなりの行為を見せろ。」
「謝罪の行為として、謝ってるじゃないか」
「もっとやるべきことがあるだろ。」

そういってじっと見つめてくる。一緒に暮らすようになってから、こういうとき兄が自分に何を望んでいるのかアルフォン
スはすっかり学んでしまった。
言い過ぎた、と思う。だけど腹いせに望むものがキスとは弟ながら情けない。
「でもごめん。木曜日は先約が入ってるんだ。」
すごく申し訳なさそうに告げたのに、恨めしげな視線が見上げてくる。
「お前。外泊なんかしようものなら、お兄さんは許しませんよ。」
「・・・」
「この間も遅くなっただろう、あいつと飯食って帰っただろ!」
「それはちゃんと連絡してただろ、兄さん」
「アルフォンス、弟よ。家族を敬え。讃えろ、家族サービスをしろ!」
「家族サービス…」
呆れてしまう。アルフォンスは頭を抱えた。
一緒に暮らすようになったのは間違いだったかなあ、と最近思わなくもない。こうやって駄々をこねるのは全くもって昔
の兄なのに、その裏にあるのが弟に対する浴びせるほどの恋情なのだから何とも言えない。

「でも、約束は約束だから。明日はだめだよ。ね。」
以前の、旅をしていた時の要領で優しく諭してみる。兄のなだめ方なら心得ているはずだ。
「お祝いしてくれようとする気持ちはすごくうれしいんだけど・・・ごめん」
しゅんとしてみる。強気に出るよりは、丸く収まることはわかりきっている。

「・・・・・・・・・・わかった」
ああ、よかった、と目を伏せてひと呼吸。
兄に感謝の笑顔を送ろうと視線を上げたら、何故か強気の顔をしたエドワードは外出用のコートを今まさに着こんでい
た。
「どこ行くの」
「まあ見とけ」
そういって、いそいそと外に出てしまった。

時計はもう10時を回っているのに、いったいどこに行ったのだろう。憂さ晴らしにお酒でも飲んでくるつもりだろうか。
「・・・まあでも。ゆっくり眠れそうだな」
そう、小さくつぶやいた。洗いたての髪の毛はすっかり乾いている。
ちょっと上機嫌になって、寝室に急いだ。









 



「アル!」
ドアがけたたましい音を立ててノックされている。アルフォンスはほとんど夢見心地で飛び上がった。
「アルフォンス!」

兄の声が切迫している。
 
「どうしたの、兄さん」
大急ぎでドアを開けると、出てきたのは抱えきれないような大きさのケーキと、うれしそうにほころんだ兄だった。

「アルフォンス!!誕生日おめでとう。」


二回しっかりと瞬きする。
「え・・・?」

寝癖のついた頭をぽりぽりとかいてから、さっと振り向いて時計を見ると、ぴったりと12時を指している。
寝付いてからほぼ一時間。深い眠りに入る直前だったから、いまいち意識がついてきていない。

ああ、誕生日。

してやったり、というエドワードの顔をまじまじと見つめて、アルフォンスは心の底からあきれてしまった。空いた口が
塞がらないと言うのは、きっとこういうことだ。
夜がふさがってるなら、朝祝う。
そういうことか。
 
「・・・ありがとう」
「さ、祝うぞ。朝までたっぷり!!」
といいつつ、エプロンを付けたエドワードが嬉しそうにキッチンに入って行く。まさかと思ったら、案の定荒れきったキッ
チンには信じられないようなオードブルの山とことこと煮立って居るらしいスープの鍋が見えて、アルフォンスはついめ
まいを覚えた。
エドワードは揚々と誕生日の歌を口ずさんでいる。
 
「ほれ主人公は席に着く!」
と、オードブルをテーブルにおいたエドワードが、ボーイを気取ってアルフォンスのイスを引く。アルフォンスが座るとナ
プキンを胸元にかけられた。
あきれたような表情で、エドワードを見上げる。エドワードはにっ、と不敵に笑う。
 
明日は、いやもう既に今日なのだが。きっと胃もたれと寝不足でへろへろになってしまうに違いない。
恋人の黒い瞳が「レストランは予約してある」と嬉しそうにほころんださまを思い出して、心底申し訳なくなった。
 
それこそが、この兄の目論む所かもしれないが。







 
 


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