|
それは眠るとき。ベッドで始まった、もともとはアルフォンスが兄を論理的に説得しようとした試みから始まったのだ。
「兄さん。ちょっと提案があるんだけど。」
「あ?」
すごんだ返事の息がすぐ鼻の先からかかる。エドワードは途中で止めるなよ、という視線で弟を見た。今愛おしい弟
の顎を引きよせてキスをしようとしたところだったのに。
それはいつもの始まりの合図で、出鼻をくじかれた方としてはまあ妥当な反応なのかもしれない。
「あのさ、毎日はちょっとつらいから、もうちょっと考えてくれないかな。回数とか、頻度とか。」
「お前・・・これ以上俺にどうしろと。」
「だから、毎日じゃなくて一週間に一回とか。あるいは3日に一回とか。」
「オレはこれでも我慢してるぞ。」
アルフォンスが絶句した。毎晩毎晩、当たり前のようにエドワードは弟の部屋にやってきて、当たり前のように襲いか
かり、当たり前のように疲れ果てさせて(そのあと当たり前のように続けようとして弟が拒否し)そのまま二人で眠っ てしまう。以前、ベッドが狭いから自分の部屋に帰って寝ろ、と抗議した時には、大学から帰ってきたらベッドが大きく 錬成されていて、兄の部屋からはベッドが消えてしまっていた。その労力と情熱に、呆れて何も言えなくなった。
だからこれは久しぶりの、そして真剣な抗議なのだ。
どこが我慢してるんだよ!
あんまり理不尽な物言いに、そして胸はってそう答えきる兄の傲慢さに、アルフォンスはちょっと本気で腹が立った。
だが次に言葉を吐いたのは兄だった。
「いいかアル。お前はなんにも分かっちゃいない。」
「は?」
「オレはすんげー我慢してる!朝から晩まで我慢してるんだぞ。
まず朝起きたらお前の寝顔が目の前にあるんだぞ。口がちょっとあいてて、まつげがぴくぴくしてんだ。あ、起きると
か思ったらお前、ちょっと声出しながら起きるだろ。ん、とかいってさ。
それからお前さあ、起き上がるときたまに「いてて」ってうめいてるだろ。そりゃあ申し訳ないとは思うけどな、そうさせ
たの俺だし。だけどそういうのがたまらなく色っぽいって、わかんねえかなあ。襲いたくなるのを、ここですでに我慢し てるだろ、朝っぱらから我慢してるだろ、な?」
「・・・・・・・・・・」
なんと言おう、それとも殴ればいいのかな。
殴れば、まあ、今日の安息は確保される。
「オレの忍耐を甘く見んな。まだある。起きた後気だるげにシャツを拾い集めて、俺に布団をかけ直して、お前朝飯作
りに行くだろ。そのけだるそうな姿と台所に立つりりしいエプロン姿と。そのギャップがどんだけ俺を出勤拒否させてる と思ってんだ。」
たく、よっぽどお前の方が罪深い、とため息をひとつ。
「仕事にいる間はお前のことしか考えられねえし。おかげでへぼい上司の命令も聞く気になれねえ。帰ってきたらア
ルの笑顔と手料理だろ」
アルフォンスは額に手を当てて、首を振った。18年間一緒に生きたけれどどうやら兄を理解しきれていないみたいだ。
「わっかんねえかなあ、風呂上がりのいい匂いさせて、火照った顔して俺の前に現れるって言うことがどういうこと
か、とか。それはつまりな、俺に襲ってくださいって・・・」
「待って、待って待って・・・・待て。」
アルフォンスはあまりの情けなさに泣きたくなって、ついに兄を止めた。だがエドワードは構わない。アルフォンスの腰
をがっしりとつかんで引き寄せる。今にも押し倒されそうで、アルフォンスは叫んだ。
「馬鹿兄!変態!!兄さんは変だよ」
「何が。」
そう言いながらアルフォンスの眼尻にキスを送っている。どうやらアルフォンスのうるんだ瞳がエドワードの琴線に触
れてしまったらしい。
「兄さん、いつも最中にボクの目を手で覆うだろ。」
「ん?」
ああ、もう。
アルフォンスはぎゅっと目をつぶった。エドワードの金属の手が背筋をつたう、左手はアルフォンスの腰を抱えたまま
だ。
ぞわりとする。う、と声を上げそうになって、逆にごまかすようにわめいた。
「両手で!何も見えなくなってびっくりするんだよ!」
「ああ。あれ、いやか?」
「いやだ。ちなみに今兄さんに流されてるこの雰囲気も嫌だ。」
首筋に顔を埋めて、エドワードはふっと笑った。一生懸命な弟の抵抗が可愛い。できれば受諾してやりたいのもやま
やまだ。
なのに熱にうかされる。
どんどん熱くなっていく。
「わっかんねえかなあ・・・。アルフォンスは。」
「・・・っ!!」
手をパジャマの奥へと進めながら、胸に唇を当てる。鼓動の音を口に含む。エドワードからはアルフォンスの、揺れる
のど仏と、懸命に引き結ばれた赤い唇が見える。
切羽詰る。追い上げられる、我慢できなくなる。
ああ、また隠したくなる。アルフォンスの視界を覆ってしまいたくなっている。
そうして早口に小さな声で呟いた。心臓に直接囁く呪文のように。
「でも、わかんなくていい」
しっかりとした腕を伸ばす。包むようにアルフォンスの頬をなでて、掌をアルフォンスの瞳にかざした。
オレ以外の誰も見るな何も見るな
俺がお前以外なんにも見えないみたいに
|