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「おう、アル!」
金髪の男が、無邪気に右手を右手を挙げた。
雑踏の街中、街頭で本を物色していた青年が振り返る。しばらく声の発信源を探すように眼を泳がせてから、その人
物に気づいた。そして人懐っこい笑顔で返す。
「ハボックさん!お久しぶりです。」
「おう、元気してたか。・・・随分たくましくなったな。」
へへへ、と頭をかいている。ついこの間まではほっそりとしていて心細かった少年が、見違えるように大きくなった、と
いう印象だ。
軍部についていくつか話して、ハボックは思い出したようにある話題を切り出した。
「そういえば。ついに大将も色気づいたな!」
「へ?」
「とぼけんなよー。この間見たんだ。町の中を結構な美人と歩いてるのをさ。」
「兄さんが?美人と?」
「声かけ損なったけどな。」
アルフォンスはちょっと考えて、憮然とした拗ねた顔をした。
「知らなかった・・・。兄さんも、言ってくれればいいのに。」
「まー兄弟でも秘密の一つや二つはあるだろ。」
アルフォンスがため息をひとつ吐く。潔い溜息。
「・・・そうですね。何にせよ、恋人ができたことはいいことです!」
目を細めて笑った。ああ、拗ねた顔も似合うけれど、この青年にはやはり、笑った顔がよく映える。
「ところでさ。今度酒でも飲もうぜ。大将も一緒に」
「お酒ですか?」
「アルももう成人だろ?いいパブ知ってんだ。その時にでも大将に詳しいこと聞こうぜ、俺も聞きたいし。」
アルフォンスは楽しそうに目をくるくるさせた。きっと、ハボックは兄がどこでそんな美人と出会ったのか知りたいのだ
ろう。
「いいですね、ボクも聞きたいし。ぜひ。行きましょう」
「わー。大丈夫か、大将は。」
パブ。ひとしきり三人で飲んだあと、ハボックがトイレから戻ってくると、酔って正体を失った兄が弟の腰に両腕をから
ませている。アルフォンスの腹に顔をうずめて唸っていた。
彼女と出会った経緯を弟と二人で事細かに聞いていると、兄は苦り切ったような顔でひたすら杯を重ねた。
さんざん飲んだ後、二人の質問に答えなくなり、目つきがあやしくなって、エドワードはついに弟に向き直った。この際
ハボックの存在は無視、というより視界に入ってないらしい。
「大体、アルわなあ!!」
に始まり、アルフォンスに対する愚痴をこぼしはじめる。
「オレが抱きしめたら嫌がるだろ、暑苦しい、とか言って。」
抱きつくのか。という視線が痛い。
はあ、まあ。スキンシップを取りたいらしくて。
「お兄様に優しくない!」
そういって、またアルフォンスの腹に顔をうずめる。顔をこすりつけるあたり、母親に甘える幼稚園児みたいだ。とさす
がに弟が気の毒になる。
「普通、兄弟で膝枕する、か・・・?母親に甘え足りなかったのかな。アルは絶対母親似だもんな。」
もはや苦笑するしかない、アルフォンスはエドワードの頭をぺちりと叩いて、「兄さん、相手間違ってるよ!」と言うと、
「んーー、アル・・・」という返事が返ってきた。
ハボックとアルフォンスが顔を見合わせる。何となくげんなりして、その日は自然お開きになった。
パブを出るときには時計が既に12時を回っている。
「兄貴抱えて帰れるか?」
「はい、何とかなると思います。・・・兄さん!ほら、しっかりして!」
ホント、ダメな息子持った母親みたいだなーと煙草をふかしながら思う。ただ、エドワードの足取りは思ったよりしっか
りしていて、歩けるようだったので少し安心した。
「送ろうか」
「明日も仕事でしょう、ここから車とるから大丈夫ですよ」
せめてもの気遣いに、とハボックが手を挙げて車を止める。背が高いからいいですね、とアルフォンスが快活に笑っ
た。
車にエドワードを押し込む。追ってアルフォンスが乗り込むと、すかさず兄が覆いかぶさってくっついてきた。
「ちょっと・・・兄さん」
「アルーーー・・・」
見上げると、車をのぞきこんでくる気の毒そうな顔。二人で苦笑する。
「気をつけろよ。兄ちゃんに間違って襲われないようにな。」
「まさか。いくらなんでも、そのくらいは兄さんだって分別あります。」
そうして、また青年は快活に笑った。
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