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昨日の夜、嫌がるアルフォンスを無理やりベッドに縫いとめた。
アルフォンスは昨日という一日に相当疲れ切っていたらしい、ある程度進むと大した抵抗もしなくなった、ただ、時折
我を忘れてしまうマスタングを見上げる哀しい瞳が胸に苦しい。こうするしかないだろう、とマスタングは知らず呟いて いた。
自分がこんなに不器用な人間だとは思わなかった。
そもそもアルフォンスがマスタングの養子にしたのは、ほんの加護心からのつもりだった。錯乱した上、軍に拘束さ
れ、意識を取り戻さないふがいない彼の保護者代わりにでもなれれば、と思っていたのだ。
思っていたのに。
年齢にしては細い背中を撫ぜながら考え込む。寝息をたてはじめた体温の高い体をゆるく抱きなおす。
いつの間にこんなに深く、落ちてしまった?
不器用に、無様に一人の青年にすがる自分が信じられない
朝、アルフォンスが小さく呻きながらベッドから起き上がる気配で目が覚める。
静かに目を開けてアルフォンスの背中を眺めた。
昨日さんざん触れた。自分がつけたにもかかわらず、赤いあざの多さにぎょっとしてしまう。
「い、たた・・・」
ベッドから離れようとしている、アルフォンスの気配。
「アルフォンス・・・。今日は休んだらいい。」
「大佐、・・・おはようございます。仕事なんだからそういうわけにいきません」
顔も向けずに、立ち上がろうとしている。立ち上がろうとする姿もけだるげで、力弱い。
自分の「仕事」に対するそんな律義さはまさしくアルフォンスらしくて、だからこそ、マスタングをどうしようもなくいらだ
たせる。
抱きしめて、また自分だけのものにしたいという衝動に駆られる。
「大佐は今日、遅番ですよね、もう少し眠れますよ。」
ベッドに散らばったシャツを引き寄せて、小さな気合を入れてアルフォンスが立ちあがる。
「コーヒー、いれときます」
返事も聞かずに階段を下りて行った。やはり多少は怒っているのかもしれない。
いや、呆れてしまっているのかもしれない。
そう思いながら、またベッドに沈んだ。自分の目を覆う。
「大佐。アルフォンス君が第二塔の二十号書庫に行ったきり帰ってきません。」
仕事場に入ったとたんに、ホークアイ中尉がそう知らせてきた。挨拶するよりも早くこのことを伝えてくるあたり、やは
り彼女は機敏だった。
マスタングは頭に軍部全体の構造図面を思い浮かべる。
「・・・すぐ戻る」
開け放ったままのドアを、また引き返す。自分が血の気が引いていることがわかる。
遠ざかる細い背中を思い出す。
「あ、大佐」
エドワードと廊下ですれ違った。
「アルフォンスしらねえか、今日は体調が悪いっていってたんだけど・・っておいおい、どうしたんだよ」
ポケットから取り出した、白い手袋をはめている。手の項には焔の錬成陣。
「お前は来るな」
「・・・アルに何があった」
「来るなと言っているだろう、上官命令だ、待機しておけ」
エドワードはマスタングの歩調に合わせてついてくる。強い金色のまなざしで、じっと黒い瞳を見つめてきた。
「あんた、このままいくと軍部破壊するだろう」
マスタングが止まる。エドワードを見た。今初めてエドワードの存在に気づいたかのような顔をしている。
「・・・お前の気持ちが、今ならわかる」
「・・・は?」
「いや、何でもない。わかった。ついてくることを許可しよう。ただし、お前は一切手を出すな」
そう言い捨てて、マスタングはまた速足で歩きだした。
「君は何があっても手を出すな。君は、私を止めるんだ、約束しろ。」
→おまけここにくっつけました★
頭がぐらぐらする。
おかしいほどタイミングが悪い、とため息をついた。
目の前に、薄く笑みを浮かべた眼鏡越しの視線がある。
「アルフォンス君」
ぎくりとして、振り返る。なぜこの人物はいつも後ろから突然声を掛けてくるのか。
できるだけ緩慢な動作で振り返って挨拶をする。会いたくはなかったが、そこは監査室の前で、相手の仕事場なのだ
から仕方がない。書庫への道はそれしかなかった。
「・・・こんにちは」
穏やかに挨拶すると、監査の男は探るような眼でアルフォンスを見た後、笑った。
「やあ、今日はなんだか疲れているね」
「そうですか?」
にっこりとわらってみる。仕事用の笑顔くらいは心得ている。
「君は本当にタイミングよく現われてくれる。昨日の検査の結果が今さっき届いたところなんだ。よかったら、持ってい
かないかな?」
そういいながらすでに部屋の扉を開けている。アルフォンスは扉の前に立って、書類を取り出す男を見た。
「入りたまえ。今日はまた聞きたいことがあるんだ。」
書類を手に、顔だけで振り返った男のメガネの奥を見ることが出来ない。アルフォンスの直感が咄嗟に言葉を吐い
た。
「・・・今日は遠慮したいのですが」
そう告げると、男は体ごと振り向いた。ふと驚いた顔で
「体調でも悪いのかな?」とからかうような声音で尋ねてくる。
「はい、・・・少し。」
男がにやりと笑う。アルフォンスは思わず眉をしかめて、でも次に吐かれた言葉には耳を疑った。
「じゃあ、ロイマスタング大佐に伝えておいて貰えないかな。いつまでもお盛んなのは結構ですが、軍の研究材料
は、もっと大事に扱って欲しいって。」
視線が首筋に落ちて、咄嗟に手のひらで首の後ろ、無数についていたであろう跡を覆った。
後ろ側についていたのに気付かなかった、呼びかけられていた時にすでに見つけていたに違いない。
しまった
「反応が遅れてるよ、アルフォンスエルリック。」
目の前の男が不敵に笑ったのと同時に、後ろから、ものすごい力ではがいじめにされた。いつの間にかもう一人入っ
て来ていたらしい。あるいは潜んでいたのか。
「・・・!!」
体を大きく振るってみたがびくともしない。いづれにせよ自分のうかつさに歯噛みする。
「出世するには、きれいごとばかりではいかないだろう?君のお義父さんもそれはよくしっているはずだ。」
ひどい頭痛がする。腕を固められたまま、室内に押し込まれた。
「アルフォンス・マスタング・・・元国家錬金術師エドワードエルリックの弟、人体錬成の成功例、さらにロイマスタング
大佐の息子兼恋人、ときている。君は人質要素としての価値が高すぎる。」
まさかそんな「人材」を、見過ごすわけにはいかないだろう
口の端が上がった男の笑いを見たのと、大きな腕で視界を遮られるのはほぼ同時だった。
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