センスレス









「なんでお前がここにいんだ」
「いるよ。仕事だから。」
エドワードはうんざりと短く切りそろえられた金髪の青年を見た。姿勢のよい青年は熱心に資料に何かを書きこんで
いる。眼鏡に慣れていないのか、何度かメガネのズレを直している。

「補佐官なんかいらないって言ったろ。」
青年がため息を吐く。「あのね」
「君の補佐官っていうのがボクの仕事なんだ。ボクには君を補佐する責任がある。」
「爆破事故の処理だろ、んなもんひとりでできる。」
「とかいって、にい・・・」
こほん、と咳ばらい。
「・・・エドワードは必ず現場で問題を起こすだろ。」


そこはセントラルの郊外の建物だったもの、の前だった。目の前一面に、建物だったものの破片が散らばっている。
これを片付けるのには随分骨が折れるな、それに・・・
エドワードは足もとに目を落として、粉々に砕けて足もとに広がる建物の破片を苦い思いで踏みつぶす。
舌打ちした。


「補佐官」というものがこういうものだとは知らなかった。
アルフォンス・マスタングと名乗る青年が自分の補佐についてから、エドワードの軍部での生活が変わった。補佐官
というのは考えていたよりもずっと、疎ましくて面倒くさい存在だ。

ごく細かい作業や仕事にも口を出してくるし、現場には必ず付いてくる。確かに指示やアドバイスは非常に的確だ
が、その存在が意味することが気に入らない。
特定の誰かを常に自分のそばにつける、つまりは、軍部はエドワードに首輪でもつけたつもりなのだろう。このアルフ
ォンスという青年をエドワードの補佐につけることによって。

アルフォンスの背中をにらむ。
(こんな奴に)
という考えを拭うことができない。
アルフォンスは背こそ高いが、線が細い。いかにも穏やかで優しい、といった印象を持つ青年だった。
補佐官という仕事が軍部での初めての仕事らしく、時々、エドワードを見ては嬉しそうに笑う。
エドワードはその笑顔が苦手だった。距離を置きたいと思った。アルフォンスの、優しさや笑顔は(たとえ補佐官でな
かったとしても)エドワードには疎ましくてしょうがない。

アルフォンスはエドワードの前に立って、建物の入り口付近へ誘導している。
「ここが入り口だったはずなんだけどな・・・ああ。ここが爆源だったみたいだね、粉々だ。」
説明を聞き流す。

ああ、いいや。いつもみたいに遠ざければいいんだ。

周りに人がいないことを確認してから、横目でもう一度、アルフォンスがこちらを見ていないことを確認した。


「俺、お前苦手なんだよな」

殴る気配を見せないほどの速さで、アルフォンスの後頭部めがけて腕を振り上げる。

エドワードの方など見ていなかったはずなのに、アルフォンスはその腕をこともなげに逆手に固めてエドワードを片手
で投げた。どすん、と大きな音が響く。足もと一面がれきだったはずなのに、一瞬で視界いっぱいに青空が広がって
驚いた。その中に、アルフォンスがひょこりと立つ。

アルフォンスに、自分が投げられたのだとわかったとき、ぽかりと口を開けてアルフォンスを見上げた。自分がおかし
くなった。
打ちつけた背中に痛みを感じない、ということはかなり手強だということ。
右腕で、所在無げに頭をかいてみる。
アルフォンスがしゃがみ込み、エドワードをのぞきこんで、首をかしげてふっと笑った。

「・・・ボクは強いよ?」
「おま・・・片手投げかよ」
「要は力の流れ、だろ?」

いしし。

と、エドワードを覗きこんだアルフォンスが歯を見せて笑う。
その背後、高らかに青空を背負って。
軍服の青よりも青空の方がよく似合う。無邪気な男だと思った。
「悪かったな」
「ん?」
「今度からはちゃんと連れてくよ。」
アルフォンスはもう一度無邪気に笑って、エドワードに向かって親指を立てた右腕を突き出してきた。
つられてエドワードも笑ってしまう。


春先の、やさしい風が短い金髪をなでて揺らしている。
それが鮮やかに青空と笑顔に映えて、エドワードはぼんやりとどこかで見た光景だ、と思った。








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