センスレス


4









温かい腕の中でうとうととしていると、額にキスされた。くすぐったくて目を閉じたまま笑む。
「最近鋼のの雰囲気が変わったな」
そう言いながら背中をさすってくれている。心地よくて、また眠気が襲ってきた。

眼尻に唇が触れる。ああ、大佐は話をしたいのだ。と思って無理やり目を開いた。
「そうですね・・・。喧嘩は無くなったですね。」
舌足らずなアルフォンスの口調に、ふっとマスタングも笑って今度は唇にキスが落ちてきた。
「アルフォンス、眠いのか」
「あたりまえです。」
抱きしめてくる腕にひそかに力がこもった。アルフォンスももぞもぞと広い背中に腕を回した。できれば眠ってしまいた
いが、相手の、何となく心細そうな態度が気になる。

「お前が近くにいるからだろうな、あれが変わったのは。」
「・・・だったら嬉しいな」
「しかし、記憶を喪失しているのに、お前の存在に安堵しているあの男は客観的に言って不気味だよ。本能で君を求
めているのだからな。本人自身ですら不気味だろう。もし、自覚したらもっと混乱するぞ、きっと。」
知らず饒舌になっている。本当は以前からため込んでいたのかもしれない。

ひとのこころに本当に敏感な人だな、と思う。伊達に出世頭ではない。
「でも、以前のような兄さんよりはずっとましだと思いますよ。」
「お前もずいぶん楽しそうに仕事をしているじゃないか」

眠い目で、きょとんとマスタングを見つめた。そんなことが言いたかったのかと噴き出す。

「たいさ、ボクは専業主夫じゃないんですから」
「ほお」
「なんですか」
「主夫だと自覚しているなら、鋼のに自分が私の家政婦などとと吹き込まないとこだ。」
「それは大佐が最初に言い出したことでしょう。大体、論点がずれてますよ」
「そんなに男の恋人がいることを知られるのが嫌か。」
「大佐が困るでしょう」

困った、三十路の男がすねだした。これは厄介だ、とひそかに何度か瞬きする。

「別に兄さんに知られるのが嫌なんじゃないですよ。」
「ならちゃんと言っておけ。お前の弟は私のものだ、と。」
「はいはい。」

ふと笑って、マスタングの背中にまわした手でぽんぽんと背中をたたいた。
「お前はまた・・・。アルフォンス、ごまかすな」
「大佐、明日早いでしょう」
「ロイと呼べ」
「ロイ、また朝早いですから」
「敬語もやめろ」
「・・・・・・ロイ、寝ようよ」
「いいな、それ。鋼のに対してみたいで。」
兄弟に嫉妬してどうするんだよ。

呆れて声も出ない。返事もせずに目をつぶったら、主張するように強く抱きしめてきた。
たまらなくおかしくなって、思わず噴き出す。目を開けると思ったより近くで、黒い優しげな眼が細められていた。
しょうがないな、という表情を返す。
軽く眼を閉じる。

そのまま、また、深い口づけをした。







「大佐。おはようございます。」
「ああ。」
目を開けると、金色のきらきらした光が目を射してまばゆい。二三度瞬きしながら目をこすると、その存在はゆらゆら
揺れて、ゆっくりと自分の前から立ち去ろうとする。
ロイ・マスタングはその金色をとどめようと夢中で手をのばして、つかんだ。

腕をつかんだ手から、現実に引き戻される。マスタングに腕を掴まれたアルフォンスが驚きながら振り向いていた。
「大佐?朝御飯、できてますよ」
「ああ、ありがとう。・・・おはよう、アルフォンス。」
ベッドから、上半身を起こしす。
ロイマスタングは短い黒髪をかきあげて、周りを見渡した。
黄緑色のカーテンの隙間から、朝日がこぼれ出ている。微笑して大佐の顔を覗き込むアルフォンスの髪の毛にそれ
が反射して、きらきらと光る。まだ腕を掴んでいることに気づく。力だけ弱めて、やはりほほ笑んだ。

つかんだままの腕で、さっぱりとしたシャツを通したアルフォンスの腕を引き寄せる。あいた手で相手の腰を抱きこむ
と、抵抗なく体が近づいて、アルフォンスがマスタングの額に口づけた。
「そこでは位置が違うだろう」
「朝っぱらから甘えないでください。ほら」
アイロンのしっかりかかったシャツを押しつけられる。腕まくりをしたアルフォンスの腕の内側に、赤いうっ血したような
跡を見つけて、マスタングは素直に自分のパジャマのボタンをはずしにかかった。
「着替えたら、降りてきてくださいね。」
聞き分けのいい子供を見るような眼で見降ろしてくるアルフォンスの腕をもう一度つかんで、今度は唇にキスをする。
「今日はアルフォンスも早番だろう。」
「はい。だから車で送れますよ」
といいながら、腕を放してキッチンに降りようとアルフォンスが身をひるがえす。

いつも伝えたいのに、伝えられない。
マスタングは頭を掻きながら、エプロンをつけたりりしい後姿をベッドから見送った。



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