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にいさん、と声の限りに呼んだ。頼むからやめろよ、ボクは死んでなんかいない、ここにいる・・!!
なのに声が出ない。起き上がろうとしてできないことに気づく。体に巻きつくチューブが、扉の向こうの触手のようにま
とわりつく。
いやだ、頼むから。兄さん。
だれも、ころさないで・・・!だれもしなないで・・・!
ボクは非力だ
苦いものが喉からこみ上げてきて涙が出た。
目の前にエドワードがいる
「兄さん・・・!」
弟の絶叫に、エドワードが振り向いた
「・・・っ!!」
がばり、とベッドからとび起きる。
「あっ・・」と、両手を口で覆った。自分がうなされていたことに驚く。
「アルフォンス」
「す、すみませ・・・」
息を荒くしながらもマスタングを起こしてしまったことについ気を使ってしまう。ごくり、とつばを飲み込んでもう一度息を
吸い込んだ。
咄嗟に口を覆った手はもはや遅く、隣にいたマスタングが起き上がっている。
「うなされたか」
じっと見つめてくる視線が痛い。マスタングには背中を向けたままで、ベッドの端に腰かけて自分を落ち着かせようと
目を堅く閉じた。なのに、先ほどの夢がよみがえるようで、あわててもう一度開いてしまう。
寒気がする。
体が震えだしたが、それよりも起こしてしまった人のことが気にかかる。
キッチンで水でも飲んでそのままリビングのソファで寝ようと思った。
ベッドから降りようとすると、後ろから抱きしめられる。
「ソファで寝る、とか言うなよ」
目を閉じて、もう一度息を深く吐いた。真っ青であろうこの顔を見せるわけにはいかない。額の汗を拭うと、涙が出て
いたことに気づいて驚く。
「・・・ソファで寝ます」
背中から、溜息がこぼれる。
「まったく・・・。お前は家政婦じゃないんだから、ここで眠れ。私に迷惑をかけているなどとは考えないことだ。」
「起こしてしまうことは迷惑だと思いますけど。」
「家族だったら迷惑じゃない。」
掌が、頬に触れる。触れた直後に驚いて離れた。
「泣いたのか」
黙っていると、後ろから顔を覗きこまれて、否応なしに確認された。また溜息をひとつ。
「よほど監査に根掘り葉掘り聞かれたな」
「・・・昨日は、実験室に連れていかれて・・・」
今度はマスタングが黙り込んだ。安心させようと胸に頭を預け「だいじょうぶです」とやっと告げる。抱きしめられて安
心したとまでは思っていても言えない。
「まさか、今更検査とかされてないよな」
「・・・。」
ちくりと刺さった針の感触がよみがえる。
額と額が触れ合う。マスタングの固く閉ざされた瞳が目の前にあって、アルフォンスはただそれを見つめていた。
「もう軍はやめろ。」
「お断りします」
「即答か」
マスタングが薄く眼を開く。苦い表情に、苦笑を返した。
「実況見分も、・・・今日の血液検査も・・・あの件に関しては必要なことだと思います。なぜあのとき僕が突然心拍停
止したのか、とか、あそこで何人・・・殺され」
「もういい、私は監査部になるつもりは無い。」
抱きしめられる。顔が青ざめていることに気づいてしまったのかもしれない。
「たいさ、」
「監査部の召集には今後応じなくていい。行くんじゃない。」
「身内びいきの激しい父さんだな・・・。」
と、笑った。ありがとうございます、とすぐ後に小さくつぶやくと、うなじのあたりに温かい唇の感触。
少し離れて視線が重なると、今度は唇に直接触れてきた。
この存在は、温かすぎるのだと思う。だから、いつも離れなくてはならないと思うのに離れられない。
「このコーヒー、極上だな」
「き・・昨日はすみませんでした。」
テーブルに突っ伏すようにアルフォンスが座っている。向かいに座る、マスタングのけろっとした顔が憎い。
「何がだ」
「起こしてしまって。大佐も・・・寝てないでしょう」
「どうしてそこでお前が謝るんだ、得したのは私の方だぞ。一日の仕事量は睡眠時間の問題じゃない。活力の補給
量の問題だ。」
はははは。
アルフォンスが信じられないという顔をあげて見ると、しれっとうまそうにコーヒーをすすっている。
「そういうお前はどうなんだ。仕事にはでられそうなのか?」
「・・・出ます。」
「そうか、気持ちの方はずいぶん回復しているようだな、いいことだ。」
黒いひとみの下には隈ひとつない。
なんでそんな元気なんだもう中年のくせに
と思ったことは伏せておく。いずれにせよ、この軽快さにずいぶん救われているのは自分だ。
ふっと、笑って立ち上がる。
「父さん、軍服、持ってきましょうか。」
「父さんというな父さんと」
「父さんは父さんでしょう。ボクはアルフォンス・マスタングなんだから。もう一杯コーヒー飲みますか?」
むっとした男の顔は見ない。そのまま、寝室のクローゼットに向かった。
キッチンに帰ると、まだ憮然とした表情でコーヒーをすすっていた。向かいに座る前に、額にキスをする。
ありがとう、という言葉を添えて。
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