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「・・・すきなんだ。」
エドワードはそのゆれる金の目をゆっくりと伏せて、でも苦しげにつぶやいた。息を吐くようにつぶやいた言葉は、雨
音に簡単に飲まれてしまうような小さく、ひ弱なものだった。それでも、アルフォンスはそんなひそやかな兄の言葉を しっかりと聞き取って、理解してしまった。
そうして心でため息をついた。二人は呼吸や視線でだけでも互いの意図を汲み取ってしまうような、そんな近い位
置にずっといたのだ。
そんな位置の近い、兄弟なのだ。
「言わずにすむならその方がお前のためにいいんだろって、考えた。でも」
だめだったんだ。お前見てたら、お前の笑顔とか、声とか、聞いてたら。
想いが あふれて
それは苦しい告白だった。アルフォンスはただ、兄をじっとみつめていた。
何もいえなかった。
それは紛れも無く兄が長い間秘めていたに違いない想いで、そうして切羽詰った想いだった。単なる家族とか、兄
弟の間の愛情とは違うものだと、はっきりと自覚するまでにあったはずの苦悩や葛藤が、アルフォンスに痛々しいほ どに伝わってくるような。
だが兄は、弟の途方にくれた顔をちらりと確認してまた顔を伏せた。
「ごめんな。」
鋼の掌で顔を覆う。
「でもどうしようもないんだ。好きなんだ、アルのことが、誰よりも。いつも、いっつも抱きしめたいキスしたいずっと一緒
にいてほしいって・・・。」
兄の肩が震えている。抱きしめてあげたほうがいいのだろうか、自分が鎧の頃にしてあげていたように。
「ずっと一緒にいてほしいって、思ってた・・・今も思ってる。」
兄が上体を起こす。アルフォンスの瞳をまっすぐに見据えた。そうして激しい雨の音にもまぎれようも、つまりはごまか
しようも無い声音でいっそ高らかに告げた。
「愛してる。アルフォンス。」
ああ、ボクはずっと前からこの想いに気づいてたのかもしれないな。
兄の金の眼はもはや揺れていなかった。ただアルフォンスの掌が震えた。
「なんで・・・」
咄嗟に目を伏せて、自分の掌を握りこんだ。
兄の顔を見ることができない。
きっと追い詰められたような顔で、審判を待つような顔で、アルフォンスの返事を待っているんだろう。そうやっていつ
も、最後の一番大切なところですべてをアルフォンスにゆだねてしまう。
卑怯だ
と、思った。でも、そうだ。気づいていたのかもしれないのに気付かないふりをしていた、自分はもっと卑怯だ。
「返事・・・とか、いいや。いつでも。でもどうしても病院を変えたい。それだけは曲げられない。」
懸命に視線をエドワードに戻した。あれだけ強い視線を浴びせていたのに先に視線をそらしたのはエドワードだった。
「・・・わかった。」
エドワードがもう一度、アルフォンスを見返す。
ああ、あの眼だ。と思う。
「いいよ、病院を変えよう。」
夜。
その日は夏も終わりに近付いているというのに、なんとなく熱くて、寝付きの悪い夜だった。寝返りを打つ。病室にもう
すっかりなじんでいる、エドワードのソファが見えた。
いつもはここにいてソファに座っているはずの人物を思い浮かべる。
「今夜は転院手続きで遅くなる」といった兄に、病院は家じゃないんだから、たまには家に帰ってゆっくり寝たら?と苦
笑しながら告げると、ひどく傷ついた表情が返ってきた。
それからうつむいて、わかった今日は家で寝る。とエドワードはつぶやいたのだった。
ため息をつく。昼間兄が自分に苦しげに告げた言葉を思い出す。
「愛してる。」
自分が何を言っているのか、わかっているのだろうか。エドワードは紛れも無く血のつながった兄で、アルフォンス
は紛れも無く彼の弟で、少なくともアルフォンスが生まれてから16年間、少しも離れたことなど無い、
「兄弟なのに・・・」
そっとつぶやいた。言葉が無機質な病室に響く。
「眠れないの?」
突然の人の気配にびくり、として起き上がろうとした。この病室には自分一人しかいないものだと思っていたから、心
臓が大きくはねた。急な運動になれていないからだが悲鳴を上げて、そのままベッドに倒れたけれど。
見慣れた肩幅の広い人影に、自然声が曇る。
「レイバー先生・・・」
「ごめん、驚かせたかな。巡回してたんだ。明日ここを退院するって聞いて、ちょっとのぞいてみたんだけど。」
でも先生、白衣を着てないですね?
そう尋ねようとして、アルフォンスは言葉を飲み込んだ。レイバーの目に、なにかいつもとは違う気配を感じる。
両手をジーンズのポケットに差し入れたまま、ゆっくりとベッド脇に近づいてくる。顔に浮かべている笑みは、いつもの
とおりなのに。
「君の兄さんはなかなか意志の強い人だね。驚いた。」
「すみません。急に退院なんて。なんであんなに急に言い出したのか、ボクもよくわからないんですけど」
「うん、でも・・・私にはわかる気がするよ。」
え、と問い返す前にレイバーの手がアルフォンスの頬に触れて、アルフォンスは兄の医師に対する警戒心や、転院
の理由を唐突に理解した。
「先生、夜・・・ここに何度かきましたか。」
聞き終わるより早く、レイバーの頬に乗せていた手がアルフォンスの胸に乗せられ、胸を圧迫された。そうしてもう一
方の手でなにか薬品のにおいのする布を口に押し当てられて、アルフォンスは混乱した。
「・・・っ!!」
「ねえ、君のお兄さんだけじゃないんだよ、君の事がほしいのは。」
遠く薄れる意識の中で、ただ「なぜ」という困難の渦に巻き込まれる。
「私もなんだ。君のことがすごくほしい。ほしくてたまらないんだ。」
え〜、一部終わり・・・あまりに長いので、分けてみました★
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