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兄さんって、こんなだったっけ?
と、スプーンを握ってにこにこしている自身の兄を見つめながら、アルフォンスエルリックは首をかしげた。
「ほら、アル。口を開けろ。」
「・・・・・・。」
「なんだよ。やっと口から物が食べられるようになったんだから、いっぱい食わないと。」
「うん・・・。」
入院してから一か月、やっとアルフォンスは食事を取れるようになった。
目覚めてからしばらくは一日のほとんどは眠っていたし、歩くことはおろかものをしゃべることもろくにできなかった。特
殊環境下で消化器官は徹底的に衰え、食事は点滴で、やっと昨日から口から物を摂取できるようになったのだ。
口を開けるアルフォンスに、ゆっくりとスプーンが差し出される。口に含むとエドワードは今までに見たこともないような
笑顔になった。
兄さん、この上なく嬉しそう・・・。
粗食しながら考える。自分の兄はこんなに過保護だったかと。
もくもく、と食べていると少し疲れて、まだ顎を動かすことに慣れていないことを痛感する。
こくん、と飲み下す。今までにない「感覚」に胸が暖かくなる。
「・・・おいしい」
微笑んでエドワードを見つめた。兄もやっぱり微笑んで、「おう、よかったな」とアルフォンスの頭をガシガシとなでてく
れる。
「兄さん、やっぱり自分で食べるよ。リハビリにもなるし。」
「何言ってんだ!まだ無理だろ!!な、もう少しだけ・・・・。」
「もうすこしだけ」・・・?
過保護というより、ブラコンだ。強く拒否できない自分も大いにブラコンだけれども。
「普通、兄弟でこんなのしないんじゃないの。」
「いいだろ、したいからしてるんだ。」
ふんぞりかえった兄にあきれる。しばらくすると、エドワードはまた満開の笑顔になった。
「いっぱい食おうな〜アル〜。」
また頭をなでてくる。ちょっとおかしくなって、思わずアルフォンスは笑った。
季節は初夏で、気温が徐々に高くなっている。色づく木々たちと、時折降る雨。湿った空気と朝の、ひんやりとした雰
囲気。
精神を休める眠り
体を満たす食事
心を癒す香り
そうして隣でほほ笑む兄をもう一度見て、アルフォンスは目を閉じた。
「アル?」
「兄さん、ありがとう。」
「うん?」
「・・・ありがとう。」
目を開けると、兄はきょとんとした顔でアルフォンスを見つめていた。
それから、ちょっと泣きそうな表情をして、大切に、いつくしむように抱きしめられる。
「あったかいね。」
「おう。アルも、あったかいぞ。」
すごい。
すごい、こんな風に、世界は輝いている。
兄の背中に手をまわして、抱き返した。瞳が熱くなるのを感じる。あ、溢れる。と思ったら頬を暖かい水が流れた。
病室ノックする音がして、兄弟は体を離した。二人して入り口を振り返る。
入り口には、若い医師が一人、無表情で立っていた。背が高いく、少し赤の入った茶色い髪は肩くらいの長さだ。
少し細めの黒い瞳が、ぼんやりとアルフォンスをみつめている。
「何か用かよ。」
兄がムスっと医者を見上げた。いつものことだが、そのあまりの横柄ぶりに弟はあわてて制す。
「いや、兄さん。どう見てもお医者さんだよ、病院でお医者さんに牙剥くなよ。」
アルフォンスが申し訳なさそうに「すみません」と会釈した。医者ははっとした顔で兄弟をみて、すぐに破顔した。
「ああすまないね、つい見とれてしまった。仲のいい兄弟だなあ、って羨ましくて。」
ははは。
照れたように頭をかく。先ほどまでの何も捕らえていない表情とは対照的に、笑顔になると日が差したような暖かい
雰囲気を持っている。
「私は今日から君の主治医になる、レイバー。レイバー・シルだ。よろしく、アルフォンス・エルリック君。」
差し出す右手に、アルフォンスは握り返した。まだ握力はまったくといっていいほど無いけれど、でも人の肌の感触は
暖かくて、気持ちいい。考えたら人の感触を味わうのはまだこの人で二人目だ。
思わずほんわりと笑顔になった。
「宜しくお願いします、レイバー先生。」
レイバーの手のひらが小さく震えたのを、アルフォンスは自分の握力の無さに驚いているのかもしれない、と、「すみ
ません、まだ握ったりとかはうまくできなくて」と小さく笑った。
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