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いつごろからだろう、と、ひどく忌々しく舌打ちをした。
いつ頃からなんて、もう多分自分の自覚が届かないころからだ。
ただただ水を持たない旅人のように、その存在だけを渇望していた。
澄んでとどまることなく。溢れだすような水を。
音もたてずに弟の部屋に入る。アルフォンスは、ベッドの中にちょうど入っているところだった。
「な、あ。」
呼びかけようとして、言葉が不自然にちぎれた。其れでも弟はふと振り返る。ちょっと驚いた顔が、ぽかりと口を開け
ている。
エドワードは扉の前にたたずんで、やっと小さく息を吐いた。こういう、何も知らないという弟の顔が。穢れも、汚い欲も
知らないという真っ白な表情が。エドワードをひどく「そそる」のだ。
「アル、さ。もう寝るのか?」
「うん。兄さんは寝ないの」
「いや・・」
頭を掻いて視線をそらした。弟の視線がこちらをじっと見つめてくるのがわかる。いつもそうだった。小さいころから、鎧
であった時でさえも、弟はひたむきなまなざしで兄を信じきっているというような眼で、見つめてくるのだ。
その純粋さを信頼を、壊したいわけじゃない、でも時々そのまなざしにどうしようもなく苦しくなる。そんな目で見るなと
喚き散らしたくなる。
「なんか、体に異変とか、ないか?」
きょとんとして首をかしげて、アルフォンスは困ったように笑った。
「唐突だね。うん、全然なんにも変ったこと無いよ。」
柔らかく優しくほほ笑んで来る。部屋の電気はベッドサイドのランプだけだからオレンジ色の優しい光が弟の笑顔を染
めた。
「そうじゃなくて・・・」
「ん?」
柔らかい笑顔の中に、不安がちらりと覗いた。おそらく兄が変な夢でも見たんだと勘違いしているに違いない。
そんなのは優しさを超えて愚かさでしかない。こうして獣を目の前に据えて、それでも弱さをさらして笑うなんて。
ベッドにつかつかと歩み寄って、ベッドサイドにドスンと座り込んだ。布団を掛けたままこちらを見つめて、眉毛を困っ
たように下げたので、エドワードは笑った。それでも緊張と、抑えきれない興奮で、呼吸が乱れそうになる。
「だから、こう・・・」
後ろから、抱きこむように腕を回す。抱きしめられることに慣れているアルフォンスは特に抵抗を見せずに、エドワード
の様子をうかがっている。
「ここ」
「ちょ」
這わせた掌を、撥ね退けようとしてくる。エドワードの掌を阻止しようと掴んでくるアルフォンスの体を逆に右腕でしっ
かりと拘束した。
うなじに鼻を擦りつけるとシャンプーとせっけんの香りがした。ああ、どうしようもない、という思いが込み上げてくる。
怖い。
左手を寝間着の中に差し入れた。
「兄さん!どこ、ちょ・・・何!!」
「いいから。」
「よくない・・・っ!!は・・・離せ!」
密着する体から弟の戸惑いと拒絶が伝わって来る。罪悪感がどこかに吹っ飛んでしまって、ただ俺を拒絶するなとい
う怒りにも似た気持ちがふつふつとわき立ってくる。
「なん・・・っでっ」
弟の震える首筋と、眼をぎゅっとつぶった表情に熱が高まる。何でも何も。理由なんかはっきりしてる。決して言うつも
りなんかないのだけど
指の腹でそっと撫でると、アルフォンスは体を捩じって逃げようとする。腕の拘束を強めた。浮かれきった頭では容赦
も力加減もできていない。
次第に呼吸が上がってきたのがわかる。やだ、と小さくつぶやいたから、エドワードは目を閉じて意識を掌に集中し
た。弟の気配を全部で感じ取ろうとする。
触れあったところから、目に入る弟を形成するすべての要素から、声から、水音から。
「ん、んっ」
「アル」
あ、と息を吐いてまた吸った弟の表情を思った。正面から見たいとまたどうしようもない想いがふつふつ浮かびあが
る。せめて声を聞きたい。
「アルっ」
耳元に、そっと口づけた。この思いが気付かれないように。
「名前・・・呼んでッ、アル」
自分もいつの間にか息が上がっている。もう一度弟の名前を呼ぶ。
「アル、なまえ。よんで」
「ッだれの・・・痛・・・なにっ」
「俺の」
「何を、あっ・・・!」
ぐい、と根元を掴んで力をいれた。ほら、と優しい声で言ったつもりだったが頭が心が熱くて、切羽詰る。鋭い声が出
た。
ああ、怖い。
怖いのは、何が
「なまえ、よんで。アル。呼ばないと、この、ままだぞ」
なあ。よんで。
腰を抱きこんだ腕を揺らしたら、アルフォンスが息をつめた。
「い、」
「よべよ」
ほら、いきたいだろ。
頭はどんどん熱くなっていくのに、心は冷えていく。背筋につんとした感覚が奔る。
「は、あ・・・っ。にい、さ・・」
そう、と言ったつもりがただの吐息になった。
怖いのは何が?
この先の暗闇に。
「アル・・・」
「・・・・に・・にいさ」
堕ちていくのはどこに?
このさきのくらやみに。
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