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「ウィンリイちゃんね?ちょっと待ってね。今すぐ代わるわ!にしても、アルフォンス君、今日も素敵な声してるわね、ほ
れぼれしちゃう・・・!」
「え、はあ、・・・ありがとうございます。」
それだけ言って、ガーフィールさんはふんふんと鼻歌を歌いそうな勢いで受話器を置き、ウィンリーを呼びに行ってし
まった。あらしのようなその勢いに、ボクはしばし呆然としてしまう。
「アル?・・・もしもし?」
「あ・・・、ウィンリイ?・・・うん。ボクだよ。元気?」
「うん。元気よ!・・・何、なんかあったの?なんか声の調子が変。」
「うん・・。いや・・・ガーフィールさんがいつにもまして元気だなあ、と思って。なにかあったのかな?」
「ああ、彼氏ができたのよ。」
彼氏。
・・・確か、ガーフィールさんは男だったような気がするけれど。
ウィンリイにお勧めのオイルのメーカーを教えてもらう。日常のこと、兄さんのことやぴなこばっちゃんのことで盛り上が
った後、ガーフィールさんによろしく、と電話を切った。
しばらく書き出したメモを見つめて、なんとなくウィンリイとの話題に上った事柄を思い出していた。
最近は仕事が忙しいらしく、てんやわんやみたいだ。しかもガーフィールさんは恋人のせいで仕事が手に付かない時
があるらしい。
すごく楽しそうだから、いいんだけどね。こっちまで楽しくなっちゃって。と、ウィンリイが苦笑する。
リビングに向かうと兄さんがクロワッサンを片手に本を読んでいる。かわいそうにクロワッサンは、その存在をすっかり
忘れられ今にも手から取りこぼされそうになっていた。
そっと取り上げようとすると、兄さんは実はさほど本に集中していなかったらしい、ボクの手ごとクロワッサンを握り
返してかぶりついた。どうでもいいけどボクの手は放してほしい。
「ウィンリイ、元気そうだったよ。ピナコばっちゃんも相変わらずだって。」
「ほひゃーひょかったなー。」
「ガーフィールさんとも話したよ。彼氏ができたんだってさ!」
「へー。」
もぐもぐ、ごくん。ああ、もう。ちゃんと噛まないと。
兄さんがやっと手を放してくれたので、パンパンと手を払う。
「彼女じゃなくって彼氏だったからびっくりした!そうだよね、そういうこともあるよね。」
兄さんはべつに興味無さそうにあーとかうーとか言っている。
「でも同性愛って不思議だよね。だって生命の存在意義って種の存続でしょ?同性愛はその理に反してしまうんだも
の。」
「しょうがねえんじゃねえ?人を好きになるって、そういう所で、じゃないと思うぞ。」
「・・・・・」
ボクは言葉を失った。そういえば、兄さんとそういう話をしたのはこれが初めてだ。
「なんだよ。アルはそういうのだめなのか。」
兄さんが目を細めてボクを振り返った。
「えっ。いや、気持ち悪いとかいやだ、とかじゃなくて、不思議だなあって。それだけ愛情が深いってことなのかなあ、
とか。」
「・・・まあ、そういうことだな、うん。」
兄さんは手をあごにあてて考え込んだ。ボクは不意に違和感を感じ取って、改めて兄さんを見た。もしかして、兄さん
は誰か・・・おそらく同性に・・・恋をしているのではないだろうか。
「兄さん、もしかして思い当たることでもあるの?」
その質問に答えは無かった。兄さんはもう僕の話を聞いていないようだった。
兄さんは一度考え出してしまったらもう誰にも止められないのだ。
日が暮れるころ、市場が開く時間になって、ボクが宿を出ようと扉に手をかけたとき、その声はかかった。
「・・・でもこれは同性愛とは違う気がする。」
「うん?」
突然しゃべりだした兄さんに、驚いて顔を上げた。
何、同性愛?何が??
あまりに時間が経過していて、意味がわからなかった。必死に理解しようと兄さんをじっとみつめる。
「たとえばな、オレは牛から分泌された白濁色の液体を飲めない。」
「・・・牛乳だろ。」
「そうだ。基本的に、バターとか、チーズとか、あれを発酵させたり加工したもんも好きじゃない。」
「うん?」
いったい、この兄は何を言いたいのだろう。もしかして、午前中に話をしていた錬金術の新しい本について話している
のだろうか。
こういうときは流れに任せて話を聞くに限る。脈略がなくても、手がかりはどこかにあるはずだ。
「でもさ、オレ、ブルーベーリーヨーグルトはすっげえ好きなんだよな。」
「は、ブルーベリー、ヨーグルト・・・?」
「そうそう。ブルーベリーヨーグルト。あれを見たら胸が高鳴るんだ。思い出すとすっげえ食べたくなる。毎食、毎日、い
つでも食べれればいいのに、って・・・・」
それから、兄さんはボクの顔をじっと見つめて言葉をつないだ。
「いいのに、って、思うんだよな。」
「・・・うん??」
残念ながら、ボクが話の概要をつかんでしまう前に兄さんの話は終わったようだった。つまりは、ブルーベリーヨーグ
ルトが食べたいのだろうか、この人。
「買ってこようか?ブルーベリーヨーグルト・・・・・。」
「何言ってんだ、オマエ。何の話してると思ってんだ。」
「・・・・・・・・・ブルーベリーヨーグルト、でしょ?」
兄さんはしばらく僕をまた見つめて、悲しそうな顔で俯いた。そしてしばらくしてから
「馬鹿アル」
そういって、ベットによじ登って毛布にくるまってしまった。
「何怒ってるんだよ」
「怒ってねえ。」
「じゃあ、すねてる?」
「・・・馬ー鹿。」
全く兄さんはわけがわからない。いつものことながら頭を抱えてしまう。
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